ロッテから巨人に移籍する香月 尊敬する亡き父のため打席に立ち続けた日々

千葉ロッテマリーンズ
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【父の指輪をじっと見つめる香月一也選手】

 今も大事に身につけているネックレスがある。千葉ロッテマリーンズから読売ジャイアンツにトレードで移籍が決まった香月一也内野手は亡くなった父の指輪が取り付けられたネックスレスをプレー中も肌身離さず、付けていた。苦しい時、辛い時、怠けたくなる時。人生には、いろいろな自分に負けそうになる時がある。そんな時は胸につけているネックレスをギュッと握りしめ、また前を向く。不思議といつも父に見てもらっている気がしたという。

 「いつも父は見守ってくれていると信じています。絶対にどこかで見てくれている。その事を感じるために母が持っていたのを譲ってもらいました。父のためにも僕は頑張って一軍に上がらないといけない」

 真夏の浦和球場で香月は胸につけているネックレスを微笑みながら触り、そう力強く話をしていた。プロ2年目、石垣島での春季キャンプ中の2月5日、午前1時54分に病気のため、最愛の父を亡くした。52歳だった。プロ入りが決まり2014年12月に大阪市内のホテルで契約を交わした翌日から体調を崩し、ずっと病気と闘っていた。容態が悪くなっていると知らせが届いたのは2016年2月4日の夕方。急きょ、チームを離れ、父のいる福岡に戻ろうとしたが間に合わなかった。那覇経由のため一日、那覇市内で宿泊。その夜に訃報が届いた。告別式が終わり実家を離れる時、父が付けていた結婚指輪を母から譲り受けた。「オレにちょうだい」と頭を下げた。いつも見守ってもらう事で、自分で自分に厳しくありたい。そんな決意も込められていた。尊敬する父に、一軍で活躍をする姿を見せる事が出来なかった悔しさが若者を駆り立てた。

 「直行便があったら、たぶん間に合っていたと思います。でも、急で時間も遅かったし、それはもう仕方がない事。泣きました。ずっと泣きました。石垣を離れる前に最後に『今から会いに戻るよ』と電話で話をしました。『おお、一也か。頑張っているか?』と。その声をボクは忘れる事が出来ない。今でもハッキリと覚えている」

 香月が父の状況が悪化している事を認識したのは地元でのトレーニングを終え、キャンプに向う準備をしている1月だった。その前年の12月には家族水入らずで、大分の温泉に行った。4歳年上の兄の結婚式でも父は言葉を振り絞ってスピーチをしていた。そんな思い出が残る中、帰り際、玄関で母に告げられた。「アンタが行った後、入院する事になる」。涙ながらに話をした母の姿にすべてを察した。立ちつくして何も言えなかった。

 父にプロ野球の世界で頑張っている姿をなんとか見せたい。春季キャンプは二軍スタートながら必死にアピールを繰り返した。プロのユニホーム姿を見せる事が出来たのは2回だけ。一年目の8月、東京ドームで行われたイースタンリーグ・巨人戦と10月、宮崎で行われたフェニックスリーグ。どちらも結果を出すことは出来なかった。今度こそ、なんとかいいところを見せたい。その一心でキャンプを過ごしている矢先だった。

 「本当に、ちょっとでいいから一軍でプレーをしている姿を見せたかった。とにかく一軍に行きたかった。父は人に心配をかけるのが嫌な人。だから、ボクにも病気の事もなかなか言わなかった。優しい人だった」

 父に勇姿を見せる事が出来なかった事を悔やみ、落ち込む香月を家族が励ました。「休んだらアカン。野球で頑張りなさい」。一番、辛いはずの母が背中を押した。だから父が亡くなった3日後の8日にはチームに再合流した。

 辛い時、ネックレスに付いている父の指輪をギュッと握りしめ続けた。すると不思議と前向きな気持ちを取り戻せた。「おお、一也か。頑張っているか?」という優しい父の声がいつも聞こえる気がした。千葉ロッテマリーンズでは残念ながらレギュラー定着とはいかなった。それでも16年9月26日の福岡ソフトバンク戦(当時QVCマリン)で攝津正投手からプロ初ヒット。17年4月23日のオリックス戦では山岡泰輔投手から初打点を記録した。プロ初本塁打は19年7月3日のオリックス戦 吉田一将投手から。家族の事を想いながら必死にバットを振り続けた。舞台は読売ジャイアンツに移る。それでも初心を忘れないで欲しい。いつでも活躍を楽しみにしていた大好きだったお父さんのために大活躍をして欲しい。6年間、本当にありがとう。楽しかったよ。

文 千葉ロッテマリーンズ広報室 梶原紀章
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