大きく変わった町田の戦い 開幕5試合で見えた「違い」とは?

大島和人

横浜FC戦の均衡を破ったのは桑山侃士(写真)のゴールだった 【(C)J.LEAGUE】

 FC町田ゼルビアは3月8日の第5節・横浜FC戦を2-0の勝利で終え、2025シーズンの戦績を3勝2敗とした。試合運びにまだ「ムラ」はあるが、目指すものは徐々に見えてきている。

 開幕・サンフレッチェ広島戦はセンターバック2人の負傷という不運もあり1-2の逆転負けを喫した。第2節・FC東京戦は1-0で制したものの、第3節・東京ヴェルディ戦はいいところなく0-1で敗れた。しかし第4節・名古屋グランパス戦を2-1で制すると、横浜FC戦(2◯0)も含めて連勝中だ。順位も暫定とはいえ5位に浮上した。

2024シーズン後半の減速を招いた町田対策

 町田は2023年に黒田剛監督が就任し、いきなりJ2を制覇。昨季のJ1は初昇格ながら3位に入る旋風を起こした。2024年のJ1ではリーグ最小の34失点でシーズンを終えていて、堅守が持ち味だった。

 一方で勝ち点の推移を見ると2024シーズンは前半戦の「39」から後半戦は「27」とはっきり減速している。

 もう一つの興味深いデータはボール保持率が50%を超えた試合の戦績で、2勝1分け5敗と大きく負け越していた。相手ボールからのカウンターを強みとしつつ「持たされる展開」を苦にしていた。

 しかし今季の町田は遠近長短を織り交ぜた攻撃で、苦手を克服しつつある。

 昨季の強みは前線のプレッシングとボール奪取、そして直線的な攻撃だった。サイドから素早く攻め切るパターンが多く、シンプルなスタイルの徹底が町田の強みだった。縦への仕掛けはコーナーキックやロングスローにつながる可能性も高い。磨き抜いたセットプレーは町田の武器で、相手を自陣に戻す副次効果もある。これがハマった展開が昨季の前半戦は多かった。

 ただシーズンを経るにつれて、相手チームはサイドの守備を厚くするようになっていた。ハイプレスを避けるため早めに町田陣へ蹴る、ロングボールを想定してDFラインを上げないといった対策も増えていた。

 町田はボールを持たせても、中央を手薄にしても怖くない相手だと思われていて、実際にそうだった。かくして後半戦の失速は起こった。

 町田は終盤戦3試合で4バックを3バックに変えて2勝1敗と復調し、多少の手応えを感じつつシーズンを終えた。シーズンオフには新たなスタイルを踏まえた補強を行い、キャンプ中にもモデルチェンジに時間を割いていた。

東京V戦の敗戦から得た教訓

東京V戦はチームの問題を浮かび上がらせた 【(C)J.LEAGUE】

 「守備側がラインを下げたら手前を使う」「相手がサイドに人を割いたら内側を使う」というのは戦術以前の常識だ。とはいえ展開や相手の形を見て瞬時に選択を変え、しかもそれを全員で共有するとなると、決して容易な話ではない。

 町田に大きな「ズレ」が出たのは第3節・東京V戦だった。町田は前半13分に失点すると、そのまま0-1で敗れた。昨季にはあり得ないような自陣の「悪い位置」でのボールロストが多く、失点場面も含めて危険なカウンター攻撃を何度も受ける展開だった。

 町田のビルドアップは東京Vのアジリティが高い、プレス能力が高いアタッカー陣の餌食になっていた。ボールを持つ選手に躊躇が見て取れて、判断の迷いが技術的なミスにもつながっていた。

 しかし選手たちはこの敗戦を学びにした。第4節・名古屋戦は1-1で前半を終え、後半に突き放す展開での勝利だった。黒田監督はこう語っている。

「我々の強みを出すためにも、スタートは相手を裏返していく作業をやっていこうという意図を持ち、選手たちは誠実に繰り返し実践してくれました。序盤に相手の背後を突く形から先制したものの、セットプレーの折り返しから決められてしまいました。ただ同点にされたとはいえ『大丈夫だ』『問題ない』ということをハーフタイムに共有しました」

 中山雄太はこう口にしていた。

「僕たちの良さは何だろうと、ヴェルディ戦で学びました。積み上げでチャレンジしていることはありますけど、そこが目的になってしまいました。自分たちの良さに立ち返ってからこその積み上げという再確認が、ヴェルディ戦の反省でした」

 短くつなぐことは必要だし、ロングボール一辺倒も良くない。とはいえ相手の出足が鋭い立ち上がりは、ロングボールで相手を「裏返す」ことが有効になる。どこでつなぎ、どこで蹴るかという基準の確認がポイントだった。

 相手の出足が緩めば、つなぎ始めてもいい。中山はこう説明する。

「相馬(勇紀)、俺、(下田)北斗くんのトライアングルが前半は効果的でしたが、相手も頑張って守備をしていました。それが一発の攻略法にはならないですけど、相手は押し込まれて、ジャブのように効いていたのかなと思っています。そこはキャンプから積み上げている部分で、認識もしっかり整ってきています」

後半に仕留める必勝パターン

中山雄太(右)を中心にした左サイドが町田の強みとなっている 【(C)J.LEAGUE】

 名古屋戦は1-1が50分以上続く展開だった。町田は攻め急がず、74分にナ・サンホが決めてそのまま逃げ切った。続く横浜FC戦も前半0-0から、後半に突き放す流れだった。なお第2節・FC東京戦(1◯0)も82分に勝ち越している。

 つまり今季の町田の3勝はすべて「前半を同点で終えて後半に突き放した展開」だ。しかも勝ち越し時点のボール保持率はいずれも50%を超えている。

 今季の町田は中盤からDF、GKによくボールを下げる。それは相手を引き出してスペースを空けるための作業だ。「安心してボールを預けられる選手が増えた」という編成面の変化もあり、最終ラインのボールタッチが増えた。

 加えて名古屋戦と横浜FC戦はボランチの下田北斗、右ウイングバックの林幸多郎が「渋い」活躍をしていた。彼らは個の破壊力を持つタイプではない。一方でスキルが高く気配りもできる、展開を落ち着かせられる人材だ。ノックアウト狙いのパンチを第1ラウンドから狙うスタイルだった町田が、駆け引きをしつつ「ジャブ」で相手を消耗させ、勝機を待つ老練なボクサーに変わろうとしている。

 Jリーグ公式サイトのデータを見ると、保持率以外にも面白い指標があった。それは「スプリント数」で、昨季の町田はほぼ全試合でスプリント数が相手を上回っていた。しかし今季のFC東京戦と名古屋戦は相手の本数が多く、横浜FC戦は両チームが同数だった。要はボールを持つだけでなく相手を振り回し、消耗させる状況を作れている。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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