Jリーグ・モンテディオ山形が創設した学生主導の“U-23マーケティング部”。地域を盛り上げる若者たちの熱意に企業も注目

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【写真提供:モンテディオ山形】

若者の流出による高齢化は、どこの地方にも共通の悩みと言えるのではないだろうか。そんな地域社会の課題解決に、23歳以下の学生を集めて取り組んでいるのが、山形県をホームタウンとするJリーグ所属のプロサッカークラブ・モンテディオ山形だ。プロジェクト名は“U-23マーケティング部”。学生とサッカークラブのコラボレーションで、どのようなものが生まれたのか。担当者として、学生たちに伴走した同クラブ・マーケティング部の原田祥平氏にお話を伺った。

高齢化率の高い山形県で、若者の流出を止めたい

参加者に“U-23マーケティング部”のコンセプトについて説明をするモンテディオ山形・代表の相田健太郎氏 【写真提供:モンテディオ山形】

“U-23マーケティング部”発足のきっかけは2年ほど前の2022年夏。山形県南部の米沢市とモンテディオ山形とで高校生を集めて行った“高校生マーケティング探求”という取り組みだ。高校生の力だけでモンテディオ山形の試合に高校生1000人を集客することを目標に、文字通りマーケティングを行って施策を考えた。

「その結果、実際に集まった高校生は100人ほどで、決して成功とは言えませんでした。ただ、終了後の“お疲れ様会”で、参加したひとりの高校生がモンテディオ山形の代表である相田に“この活動はこれからも続けるんですか?”と尋ねてきたそうです。そういったこともあり、相田は、山形県からの若者人口の流出や、若者の活躍する場が少ないことを課題に感じていたので、これは是非とも続けて行くべきだと決意を新たにして、昨年からクラブ主導で“U-23マーケティング部”を立ち上げました」

“「為せば成る」~どんなことでも強い意志を持ってやれば、必ず結果がでる~”をスローガンに2023年1月に立ち上がった“U-23マーケティング部”には、県内外から40名の高校生・大学生が集まった。第1期ということで、モンテディオ山形が好きという学生が多かったが、山形県に縁もゆかりもないけれどもマーケティングを学んでみたいということで参加した学生もいたという。

コロナ禍で制限されていた仲間とのコミュニケーションが復活

コロナ禍で仲間とコミュニケーションを取る機会が制限されていたからこそ、参加者には貴重な機会となった 【写真提供:モンテディオ山形】

“U-23マーケティング部”は、最終的には10月に開催される“U-23マーケティングプロデュースデー”の試合に1万人の来場者を集めることを目標に、週1回1時間半のミーティングを重ねていった。ミーティングではグループワークをしたり、各界の著名なゲスト講師を招いてマーケティング関連の講習を受けたりすることもあったようだ。

「1時間半という短い時間では、何か決めるところまではいきません。すると、だんだんコミュニケーションツールなどを使って時間外にも参加者同士で話すようになる。もしかしたら、そっちの方がメインなのではないかと思うぐらいに(笑)。というのも、参加者はコロナ禍という特殊な環境下で数年過ごしてきたこともあって、仲間と一緒に何かを作るというような経験ができなかった人たちなんです。だからなおさら、そのような機会を得て、おこがましい言い方になってしまうかもしれませんが、みんなどんどん力を付けて成長していったようです。彼らが高いレベルを目指そうとしていると、それに着いていかなければなりませんから、クラブ全体の意識にも好循環が生まれていきました」

“U-23マーケティング部”の存在は、モンテディオ山形のスタッフたちにもいい刺激を与えたようだ。学生が企業とコラボレーションをするというと、インターンのようなものを連想する人もいるかもしれないが、それとは異なる位置づけだと原田氏は言う。

「スポーツのクラブがよくやっているインターンというのは、運営の手伝いをしてもらうとか、社員の手が回らないところを補ってもらうようなことが多いですが、基本的に僕たちの仕事を手伝ってもらうことはありません。彼らが自分たちで決めて、自分たちでチャレンジしている。その点がインターンとは全く違う点ですね」

長期的な取り組みで、将来的にはマネタイズを目指す

第1期の締めくくり、2023年10月8日に開催されたプロデュースデーでは、大人の運動会が行われ、大いに盛り上がった 【写真提供:モンテディオ山形】

“U-23マーケティング部”の第1期は、2023年1月から10月まで活動し、10月8日にはメンバーだけで立ち上げたイベント・プロデュースデーを開催して終了した。

「プロデュースデーの参加者は7462人。1万人を集めるという目標は達成できませんでしたが、みんなが10ヶ月間一生懸命頑張って作り上げたイベントで、参加してくれた人を幸せにすることができたのが、一番の成果ですね。このような取り組みは短期で結果が出るものではありません。とはいえ、クラブもビジネスとしてやっているわけなので、今は人材育成のための活動として進めつつ、将来的にはマネタイズできるようにすることが目標です」

ビジネスとしてはまだこれからだと原田氏は語ったが、この取り組みは多くのメディアに取り上げられ、他のクラブチームをはじめとする様々な企業からも注目を集めているという。

「第1期のあるメンバーがモンテディオ山形のメインスポンサーの企業にインターンに行くことが決まったのですが、“行ってみたらいきなり『部長』扱いで驚いた”と言っていました。彼らの活躍をきちんと見ていて、“U-23マーケティング部”で頑張っていた学生なら安心だねと評価してくださっている。そんな流れも今後は作っていけるといいなと思っています」

単にモンテディオ山形のファンというだけではなく、サッカーを通じて何かの取り組みをしたい、地域に貢献したいというメンバーが多く集まっているそうだ。モンテディオ山形が地域貢献をテーマに取り組んでいるのは、この“U-23マーケティング部”のほかに、60歳以上の人々の作るコミュニティ“O-60 モンテディオやまびこ”がある。プロサッカーのクラブチームであることと、地域貢献がいたって自然に結びついている。

「代表の相田は、“モンテディオ山形は、サッカーだけを生業としてやっている会社ではない。地域に対してサッカーをはじめとするエンターテインメントなどを提供する集団なのだ”ということを常々言っています。そのマインドを社員はみんな受け継いでいるので、“U-23マーケティング部”の取り組みは、僕たちにとって自然なことなんです。とはいえ、さっきも言ったように短期で結果の出るものではないけれども、慈善事業でもないので、マネタイズを視野に入れて長期的に粘り強く取り組んでいきたいですね」

原田氏は、集まった若者たちに伴走し“U-23マーケティング部”の取り組みを見守りながら、彼らの根性やガッツに、それまでの若者たちのイメージを良い意味で崩されたと語った。大人たちは若者を“Z世代”と呼び勝手なイメージを抱いてしまいがちだが、そんな先入観は無用ということだろう。今後も継続されるという“U-23マーケティング部”の作り出す未来に期待したい。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真提供:モンテディオ山形

※本記事はパラサポWEBに2025年2月に掲載されたものです。
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