書籍『脱・叱る指導』

仙台育英・須江監督と臨床心理士が語る「主体的に取り組む選手のほうが成長する」理由

村中直人、大利実

厳しさとは妥協しないこと、要求水準を下げないこと

須江 今のお話から感じたのは、「こうしたことを理解していくと、叱ることや怒ることの意味合いはどんどん減っていく」ということです。方法論が合っていない選手に、「何でできないんだ!」と怒ってもしょうがないですよね。目の前にいる選手一人ひとりの個性や特徴は違うわけで、全員が同じ練習をする意味はほとんどありません。

村中 こういうお話をすると、「緩い指導」「甘い指導」と勘違いされる方がいるのですが、まったく違います。ひとつ大事にしてほしいのは、「厳しさとは、妥協しないことと、要求水準が高いこと」という考えです。方法の多様性を尊重しているだけで、決して要求水準を下げているわけではありません。

須江 非常に納得できる考えです。うちのシステムは、ある意味では選手にとって厳しいハードルだと思います。自分でやらないといけないですからね。

村中 発達障害の子どもが集団生活を送るときに、受け入れる側は「合理的配慮の提供」(障害のある子どもが平等に教育を受ける権利を享有するために、学校が必要な変更や調整を行うこと)が法律で義務付けられています。ただ、学校現場ではそれがなかなか理解されないことが多く、その原因のひとつとして考えられるのが、「要求水準を下げること」と安易に結びつけてしまうからです。言葉を選ばずに言えば、「かわいそうな子だから、求める水準を下げる。特別扱いする必要がある」という発想です。もちろんそれも合理的配慮のひとつではあるのですが、「要求水準は変えずに、そこに至るまでの方法論の選択肢を豊かにする」ことも重要な合理的配慮です。要求水準と方法論は分けて考えることが重要で、要求水準を下げる対応は最終的な手段だと考えるべきだと私は思っています。

須江 本当によくわかります。うちもメンバーに入るための基準を設けて、そこに達するまでのやり方は工夫できる余地をだいぶ残しています。仮に方法論がわからなければ、指導者にアドバイスを求めて構わない。できる限り、方法論の幅を増やすようにしています。

村中 その考えがベースにあれば、怒声を飛ばす必要がなくなるんですよね。指導者が激しく怒ると、どうしても指導者側のコントロールが強くなるので、選手側の意志決定の自由度が狭まることになる。須江先生のような考えを持った指導者が、これから増えてほしいですね。

須江 ありがとうございます。

村中 貴重なお時間をありがとうございました。今後のさらなるご活躍を願っております。

書籍紹介

【画像提供:カンゼン】

時代遅れの指導はなぜなくならないのか?
ベストセラー「<叱る依存>がとまらない」の著者が質す
子どもたちの学びや成長の促進に必要な“真のコーチング”とは


<特別対談収録>
須江航(仙台育英硬式野球部監督)
池上正(サッカー指導者)
萩原智子(元日本代表競泳選手)
スポーツ指導における「叱る」について、その本質や向き合い方をさまざまな角度から掘り下げていく一冊です。

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