【第108回日本選手権室内】展望:トラック編
【フォート・キシモト】
近年、日本のトップ選手たちは、自身が最大目標に掲げる大会から逆算して、そのときどきに必要となってくる課題のクリアを目指して、出場していく競技会を国内外に関係なく選んでいくようになっている。このため、今大会も、必ずしもトップ中のトップが勢揃いするという状況ではなくなっているが、一方で、この大会での結果をステップとして2025年シーズンに大きな飛躍を見せる新しい顔や、復活を遂げる顔が現れる瞬間に立ち合うことができるかもしれない。
また、併催される2025日本室内陸上競技大阪大会(以下、日本室内大阪大会)にも、U20、U18、U16の各区分で、昨年、素晴しい成績を残した選手たちが、多数エントリーリストに名前を連ねている。陸上界の未来を担うホープたちの躍動にも注目だ。
ここでは、トラック編とフィールド編の2回に分けて、日本選手権室内の見どころを中心にご紹介していこう。
※出場者の所属、記録・競技結果等は1月25日時点に判明しているものを採用。また、エントリーは、1月14日に確定したリストに基づき、1月25日までに更新された情報を加えて構成した。なお、今年度から、室内・屋外の区分がなくなっていることから、従来の「室内日本記録」も、「日本記録」の表記に統一している。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
日本選手権室内で実施されるトラック種目は、男女ともに60mと60mハードルの2種目。どちらも東京世界選手権の参加標準記録には含まれていないが、WAワールドランキングでは、60mは100mに、60mハードルは110mハードル(男子)および100mハードル(女子)に紐づく種目となっている。カテゴリDに属するこの大会は、8位までに入賞すれば、このカテゴリに基づく順位スコアも加算されるため、選手たちにとってはランキング順位を上げる絶好のチャンス。また、ここまで実施してきた冬期トレーニングの進捗を確認する機会にもなっている。
◎男子60m
【フォート・キシモト】
U20日本記録:6秒59(桐生祥秀、2024年)
世界室内参加標準記録:6秒55
資格記録でトップに立つ宇野勝翔(オリコ)は、社会人1年目の昨シーズン、10秒09まで自己記録を伸ばしてきた選手だ。順天堂大で力をつけ、4年時の2023年には杭州アジア大会の日本代表に選出。4×100mリレー(アンカー)銀メダル、200m8位の成績を残している。200mのほうが強みを発揮できる印象だったが、昨年は100mで急伸長。10秒1台に突入すると、秋には10秒09まで更新した。この大会の出場は、中学3年時の2017年以来で、シニアとしては初挑戦となる。後半に順位を上げていくタイプだけに、前半型が優位なこの種目で、どんな走りを見せるか。初出場を目指す東京世界選手権に向けて、好スタートを切りたいところだろう。
エントリーリストで宇野に続くのは、高校生の西岡尚輝(東海大仰星高)。昨年、インターハイ準決勝で高校歴代2位の10秒11をマーク。インターハイ、U20日本選手権、国スポ(国民スポーツ大会:少年A)を制するいわゆる“高校3冠”を達成したほか、リマ(ペルー)で開催されたU20世界選手権では5位入賞を果たしている。前回は、U20男子60mで予選・決勝とも6秒73をマークして優勝した。60mのU20日本記録は桐生祥秀(当時洛南高、2014年)の6秒59i、歴代2位はサニブラウンアブデルハキーム(当時東京陸協、2018年、ダイヤモンドアスリート修了生)の6秒65iだ。シニアと競うなかで、新記録誕生のアナウンスを聞くことができるかもしれない。
和田遼(ミキハウス)は、昨年出した資格記録は10秒13だが、東洋大4年の2022年に10秒10で走っている選手。また、デーデーブルーノ(セイコー)は東海大4年の2021年、東京オリンピック男子4×100mリレー代表(補欠)に選出された実績を持つ。一時期の低迷を乗り越え、昨シーズンは3年ぶりの自己記録更新となる10秒18を2度マークしている。後半を武器とするなかで、どういう走りを見せてくるかに注目したい。昨年、36歳で自己記録を10秒20へと更新した草野誓也(AccelTC)は、1月生まれ。今大会で37歳のシーズンが始まることになる。
◎女子60m
【フォート・キシモト】
U20日本記録:7秒38(青山華依・三浦愛華、2021年)
世界室内参加標準記録:7秒15
昨年、100mで日本リスト1位を占めた御家瀬緑(住友電工、11秒37)は不在ながら、各年代のトップがエントリーする豪華な顔ぶれが実現した。
まず、動向に注目したいのは、日本代表として世界大会を複数経験している鶴田玲美(南九州ファミリーマート)、君嶋愛梨沙(土木管理総合)、兒玉芽生(ミズノ)の3選手。前回、60m日本歴代4位タイの7秒38でこの大会を制し、屋外では100mで自己新(11秒44)、200mはセカンドベスト(23秒20)で走っている鶴田は、リレーはもちろん、2023年ブダペスト大会(200m)に続く個人種目での世界選手権出場を期して、大きなステップアップを狙っているはず。昨年の日本選手権100m・200mで2年連続2冠(100mは3連覇)を達成し、勝負強さを印象づけた君嶋愛梨沙は、200mでは23秒16の自己新をマークしたものの、100mでは足踏み状態が続いた。リレーと個人種目で自国開催の世界選手権出場を狙うためには、やはりさらなる躍進が必要だ。また、100mで2022年に日本歴代2位の11秒24を出している兒玉芽生(ミズノ)は、昨年は海外の室内大会60mで日本歴代3位の7秒37をマークして好スタートを切ったが、屋外シーズンに向かう時期に故障に見舞われ、悔しい1年を過ごした。屋外へのスムーズな移行を意識しての初戦となりそうだ。
これらのエースに加えて注目したいのが、昨年、躍進を遂げた選手たち。この大会を、すでに園田学園女子大1年の2021年に7秒38のU20日本記録で勝っている三浦愛華(愛媛競技力本部)は、社会人1年目の昨年、屋外で11秒45まで記録を伸ばし、初の日本代表選出となる世界リレー出場(4×100mリレー1走)を果たした。今回は2度目のタイトル獲得とともに、7秒29の室内日本記録(福島千里、2012年)を見据えながらの挑戦となるだろう。三浦と同様に昨年、世界リレー(4走)で初めて日本代表を経験したほか、日本学生個人選手権で11秒41のU20日本新記録樹立と著しい躍進を見せていた直後の日本選手権で肉離れに見舞われ、戦線離脱を余儀なくされた山形愛羽(福岡大)は、再びの上昇機運を描きたい。
このほかでは、昨年、インターハイ、U20日本選手権、国スポ(少年A)を制した小針陽葉(富士市立高)、中学生として初の11秒5台突入となる11秒57の中学新記録をマークした三好美羽(F・a・s・t)も日本選手権の部にエントリー。シニアのなかで、どんな走りを見せるかにも注目したい。
◎男子60mハードル
【フォート・キシモト】
世界室内参加標準記録:7秒57
U20日本記録(※60mJHでの実施):7秒61(村竹ラシッド、2020年)
日本の110mハードルは、今やメダル獲得を狙って、世界大会に挑む選手が複数存在する種目となった。東京世界選手権に向けても、早くも2名が参加標準記録(13秒27)を突破済み。この記録を上回る自己記録を持つ選手も多く存在する激戦区だ。
今大会、優勝争いの中心となりそうなのは、高山峻野(ゼンリン)、藤井亮汰(三重県スポ協)、町亮汰(サトウ食品新潟アルビレックスRC)の3選手か。
パリオリンピックにも出場した高山は、多くの人が知るように、何度も日本記録を塗り替え、世界大会に数多く出場するなど、男子110mハードルを牽引してきた実力者。2022年に出した自己記録13秒10は日本歴代で3番手に位置する。今季は、2017年ロンドン、2019年ドーハ、2023年ブダペストに続く4回目の世界選手権出場、さらには2021年東京オリンピックに続く自国開催の世界大会出場を果たすことになる。
1996年生まれの藤井は、着実な足どりで昨年13秒39まで記録を伸ばしてきた選手。国内大会の決勝には必ずいると言ってよい存在だが、いわゆるチャンピオンシップの優勝経験はない。タイトル獲得のチャンスでもある。
その藤井を退け、前回の室内日本選手権タイトルを獲得したのが町亮汰。国際武道大時代はケガに泣き、レース復帰は大学4年になってからだったが、そこで一気に13秒58まで自己記録を更新。社会人1年目となった昨年は、さらに13秒40まで引き上げたほか、日本グランプリシリーズでも2勝を挙げている。
資格記録で、この3人に続く徳岡凌(KAGOTANI、13秒54)は、2022年・2023年に13秒51で走っている選手。また、西徹朗(早稲田大、ダイヤモンドアスリート修了生)は、前高校記録(13秒69、2021年)保持者。昨年マークした自己記録13秒57は、2.1mという向かい風のなかで出したものだ。学生最後のシーズンでの飛躍に向けて、幸先の良いステップを踏んでいきたい。
◎女子60mハードル
【フォート・キシモト】
U20日本記録:8秒23(林 美希、2024年)
世界室内参加標準記録:7秒94
昨年、100mハードルで12秒69の日本記録を樹立した福部真子(日本建設工業)のほか、この種目の日本記録(8秒01)保持者である青木益未(七十七銀行、100mハードル元日本記録保持者12秒86)、大松由季(CDL、12秒94)、清山ちさと(いちご、12秒96)、中島ひとみ(長谷川体育施設、12秒99)と、5人の12秒台ハードラーがエントリー。上位争いは、これらの選手によって繰り広げられることになりそうだ。
万全であれば、日本選手権室内5連勝中(前身大会を含めると6連勝)の青木と、昨年、日本女子として初めて12秒7の壁を破り、パリオリンピックにも出場している福部の対決と見込まれるところだが、昨年の秋、大病に見舞われた福部は、完全復活に向けた過程のなかでの出場。“暖機運転”といった位置づけでのレースになりそうだ。一方の青木も、昨年は3月の世界室内まではまずまずの経過を辿っていたが、屋外シーズンに入って故障の影響で苦しみ、日本選手権も欠場することに。シーズンベストは初戦の決勝でマークした13秒11にとどまっており、復調に向けての第一歩という位置づけのレースになる。両者の状態が上がってきていない場合は、昨年、13秒07の学生記録を樹立した本田怜(順天堂大)も含めて、誰が勝つかわからない混戦となるだろう。
このほかでは、昨年、100mハードルでU20日本歴代2位の13秒28をマークしている髙橋亜珠(筑波大)がエントリー。年が明けたので今大会はU20カテゴリからは外れるが、200mでも23秒67の走力を持つタレントの持ち主。前半から先行するタイプではないものの、室内60mをどのくらいで走れるかに注目したい。また、七種競技のヘンプヒル恵(アトレ)も出場を予定している。得意とするハードル種目で、屋外に向けて快調な滑りだしを見せてほしい。
◎日本室内大阪大会のトラック種目
U18男子60mでは、昨年、100mで10秒26の高1最高をマークした清水空跳(星稜高)、高1歴代2位の10秒44で走っている荒谷匠人(近大東広島高)に加えて、10秒46の中学記録を樹立した小寺慎之助(習志野四中)が激突する。前回、U16を6秒88の好記録で制している清水は、カテゴリを変えての“連覇”に挑むことになる。
また、ハードル種目では、U20男子60mハードルに、昨年、110mハードルで13秒59の高校記録(シニア規格で実施)を樹立した古賀ジェレミー(東京高、ダイヤモンドアスリートNextage)がエントリー。この大会ではU20規格で実施されるが、パリオリンピック入賞の村竹ラシッド(JAL、当時松戸国際高)が2020年にマークしたU20日本記録(7秒61)にどこまで迫るかが見どころになりそう。
U18では、男子60mジュニアハードル(U20規格で実施)に、昨年、同規格の男子110mハードルで13秒83の中学最高をマークした後藤大樹(四街道北中)が、また、女子60mユースハードル(U18規格で実施)には、昨年、同規格の女子100mハードルで12秒台に迫る13秒09の中学最高を叩きだした福田花奏(神河中)が名前を連ねた。ハードルの高さやインターバル距離に違いはあるものの、シニアに迫るような好走を披露してくれるかもしれない。
ライブ配信1日目:2月1日(土)
トラック競技全種目・表彰
※リンク先は外部サイトの場合があります
フィールド競技全種目
※リンク先は外部サイトの場合があります
ライブ配信2日目:2月2日(日)
トラック競技・表彰、U20女子走幅跳、日本選手権女子走幅跳、日本選手権女子走高跳、U20男子棒高跳
※リンク先は外部サイトの場合があります
U20男子棒高跳、U20男子走幅跳、日本選手権男子走幅跳、日本選手権男子棒高跳、日本選手権男子走高跳、U20男子三段跳、日本選手権男子三段跳
※リンク先は外部サイトの場合があります
※応援TV・日本陸連公式チャンネル(https://ohen.tv/channel/)、日本陸連公式X(https://twitter.com/jaaf_official)でも予定しています。
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ