「広島カープイズム」に迫る

広島のスカウトが明かす菊池ら獲得の裏側 松本スカウト「自前で選手を鍛えて育てるという意識は他球団よりも強い」

西尾典文

大学入学前の矢野に「4年後絶対に獲ります!」

大卒4年目で主力に成長した矢野も松本スカウトの担当選手だ 【写真は共同】

——菊池選手は上位で指名しましたが、下位で指名して上手くいった選手ではどうでしょう?

 下位で一番活躍してくれたのは西川龍馬(現・オリックス)ですね。他球団は全く熱心ではなかったと思います。僕としても菊池のように上位でとは思っていなかったので、そこまで頻繁には見に行けなかったのですが、行く度によく打っていました。相性もいいのかなと思いましたね。怪我明けということでそんなに試合にも出ていなかったですが、スイングに柔らかさもありましたし「面白いので獲ってください」とお願いしました。

——2024年ブレイクした矢野雅哉選手も松本スカウトが担当ですが、矢野選手の印象も教えてください。

 1月に年始の挨拶に行った時に亜細亜大が紅白戦をしていたんです。当時の生田(勉)監督と一緒に見ていたら三遊間の鋭い打球を飛びついて、すぐに起き上がってアウトにしたショートがいたんです。生田監督に「あんな選手いましたか?」と聞くと、まだ入学前の矢野だったんです。その時に生田監督には「4年後絶対に獲ります! 他球団は断ってください」と言いました(笑)。バッティングは非力でしたけど形は悪くなかったし、足もありましたから。結局、他球団はそこまで評価していなかったのか、運良く6位で獲ることができました。

——担当したエリアで見てきた中で、凄かったなと思う選手は?

 守備では源田(壮亮・西武)ですね。愛知学院大時代からグラブさばき、スローイングの安定感は抜群でした。トヨタ自動車に入ってからも守備はやっぱり上手いなと思いましたね。菊池は派手でしたけど、源田は堅実さがあって、プロでも1年目からゴールデングラブ賞を獲れるんじゃないかなと思って見ていました。

 バッティングではこれもトヨタ自動車の選手になりますけど荻野(貴司・ロッテ)ですね。足ももちろん凄かったですけど、打つ方も抜群で1試合3ホームランというのもありました。

——担当した選手で、まだ二軍ですけど今後が楽しみなブレイク候補がいたら教えてください。

 2023年の育成1位で指名した杉田(健)は面白いと思います。大学(日本大国際関係学部)の時は4年のときしか投げていなくて体も細いのですがいいボールを投げていました。プロ1年目も怪我なく1年過ごせて、編成の人に聞いても良くなっているという話でした。

 野手では同じ年の育成2位の佐藤(啓介/静岡大)が楽しみです。守備はまだまだなのですがバッティングセンス、インパクトの強さはかなりのものがあります。「打てば使ってもらえるからまずは打て」と言っていたら、いきなりシーズン初めに二軍で四割くらい打ったので驚きました。今後レギュラー候補にはなれるだけのものはあると思います。

カープらしいスカウティングとは?

今年も新たに8選手が入団した。松本スカウトは小船(後列真ん中)に期待を寄せる 【写真は共同】

——2024年のドラフトで担当した選手についてもお願いします。

 また育成になるんですけど、育成1位の小船(翼/知徳)が面白いピッチャーです。198cmの身長があって、良い時は150キロもちゃんと出る。まだ体幹が弱くて投げ方もやや癖があって、怪我もしたので育成になりましたが、上手くプロのコーチに教わっていけば凄いボールを投げると思います。今年はスカウト会議で高校生でアドゥワ(誠)みたいな大きくて化ける可能性があるピッチャーが欲しいという話もあって、担当ではありませんが5位でも身長2メートルある菊地ハルン(千葉学芸)も獲りました。ハルンと小船で上手く競い合って伸びていってくれるといいですね。

——カープのスカウト活動、スカウティングが他球団と異なるところは?

 担当に任されている部分は大きいですね。他球団のように5人や6人で見に行ったりすることはまずないです。その分責任もありますし、やりがいもあるとは思います。

——スカウトととしての喜びはどんなときに感じますか?

 自分が担当した選手が一番多い時でスタメン9人中6人並んだことがあって、その時は嬉しかったですね。9人全員というのを目指しているのですが、それはなかなか難しいですね。ただ龍馬にしても九里(亜蓮)にしても移籍してしまいましたが、担当した選手が他球団にも高く評価してもらえる選手になったというのも嬉しいですね。

——最後に松本スカウトの考える“カープイズム”、カープらしさとは?

 FAで選手も獲りませんし、逆に出ていく選手も多いです。だから自前で選手を鍛えて育てるという意識は他球団よりも強いと思いますし、それがカープらしさかなと思います。僕らが指名した選手が試合に出やすい状況というのは常にあるので、それもやりがいを感じますね。苑田さんが担当した選手を全員合わせると、主要なタイトルを全部獲っているので、僕もそれは目指してやりたいと思っています。

松本有史(まつもと・ともふみ)

1977年生まれ。広島県呉市出身。崇徳高校、亜細亜大を経て1999年のドラフト7位で広島に入団。2005年に引退し、2006年から東海地区と亜細亜大の担当スカウトに就任。菊池涼介、西川龍馬、野間峻祥、床田寛樹、栗林良吏、矢野雅哉など担当選手の多くが主力へと成長。2024年のドラフト会議では小船翼(知徳・育成ドラフト1位)、安竹俊喜(静岡大・育成ドラフト3位)の2人を担当した。

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著者プロフィール

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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