大宮はレッドブル買収でどう変わっていくのか? 「RB」トップ会談で見えてきた理想の関係性
取材を通して見えてきたキーワード
スタジアムや練習場などを視察した原博実氏。RBライプツィヒを取り巻く環境に強い刺激を受けたようだった 【写真:舩木渉】
「日本にもレッドブルの関係者が来て、ミーティングをたくさん重ねました。その中で彼らが言っていたのは、まず大宮の現状を正しく知りたいということです。どういう歴史があって、どういう現状で、施設はどうなっていて、育成はどうで、トップチームはどうなのか……と。
何かを変えたいというより、まず大宮がどういう状況かをしっかり知ったうえで一緒になって成長させたいという考えを彼らからすごく感じるんですよね。だから上から目線で『こうしろ』と言われたことは一度もないんですよ。
人も育てなきゃいけない。施設も改善しなきゃいけない。でも、いきなり何かを変えるよりも、まずお互いを知って、一緒により良くなるためのプロセスを考えようという発想なんです。なので、ここからどんどん良くなっていきそうなヒントがすでにたくさんあって、みんなワクワクしている感じがします」
大宮が加わることでレッドブルグループはさらに大きく強く発展していく。「ピッチ内外両面で素晴らしいものを得られるでしょう」と、プレンゲCBOも新たな家族の一員とのコラボレーションが生み出すシナジーに大きな期待を寄せていた。
「例えば選手育成のメソッドや私たちのフィロソフィーのみならず、スカウティングやメディカル面など、あらゆることについてネットワーク内で情報を共有できます。ライプツィヒ、ザルツブルク、ブラジル、ニューヨーク、大宮といった私たちのグループに属するクラブはアカデミーからトップチームまで同じフィロソフィーのもとでチームを育て、勝利を目指していきます。
そして、私たちには経験と知識があります。若い選手を育成するためのアカデミー施設やスタジアムをどのように作って活用していくかについてもしっかりとした知識を持っているので、もちろん大宮にもそれらを共有できます。スポンサーの獲得や広報活動などについてもレッドブルのネットワークをうまく活用し、情報を共有しながら、より良いものを築いていけると考えています」
取材を通して見えてきたキーワードは「共有」だ。複数のクラブがそれぞれの強みや知見を持ち寄り、それぞれの成長につなげていく。本来なら膨大な時間やリソースを要するものも、複数クラブの力を掛け合わせることで限界を押し広げることができる。それこそレッドブルグループのようなマルチクラブオーナーシップにおける最大のメリットだろう。
「私たちはファミリーですから」
ドイツの大手サッカー誌『キッカー』にもレッドブル特集が。RB大宮の新エンブレムも掲載されている(右下) 【写真:舩木渉】
「育成年代の交流はすぐにでもできると思っています」
そう語った原氏は前のめりに続ける。
「大宮のアカデミーがドイツに来て試合をしたり、選手を練習参加させてもらったり、あるいはコーチがライプツィヒのノウハウを学ばせてもらったり。その逆でライプツィヒの選手やコーチに日本へ来てもらっても、お互いに刺激があると思います。昨日の夕食の際にプレンゲさんとも『それはすぐにでもできるね』という話をしていました」
指導者としてJリーグで監督を務めるだけでなく、JFAの技術委員長やJリーグの副理事長などを歴任し、幅広い役割で日本サッカーの進歩に貢献してきた原氏は「育成に正解はないんです。いろいろな選択肢を持ちながら、適材適所に一番いいものを選んでいけばいい。今回レッドブルグループに入ったことで選択肢が増えますし、それをうまく使っていけば我々の強みになっていくんだろうと思います」とも語っていた。新体制になって最初に大きく動くのは、クラブの未来を担う選手を育成するためのアカデミー改革かもしれない。
静かに頷きながら原氏の話を聞いていたプレンゲCBOは、大宮の積極的な姿勢を歓迎するように「私たちはファミリーですから」と応じた。
「大宮も家族の一員なので、わざわざオフィシャルにレターを出して『やらせてください』と言う必要はありません。お互いにやりたいときにやりたいことを、仲間としてオープンに話をして実現していける環境があるのが強みです」
「メールや電話で終わらせるのではなく、しっかりと顔を合わせて、深いところまでコミュニケーションを取りながらやっていきたいです。それも一度だけではなく、監督やコーチなど現場の人たちにも入っていただいて、何度も何度もコミュニケーション重ねながらやっていきたいと思っています」
帰国直前、ライプツィヒ空港で立ち寄ったキオスクでドイツ最大手のサッカー誌『キッカー』最新号を手に取ると、2025年1月からレッドブルのグローバルサッカー部門責任者に就任するユルゲン・クロップ氏が表紙を飾っていた。同氏の役割や今後の動きなどを詳細にレポートした巻頭特集の中には、レッドブルグループのクラブを網羅した世界地図が掲載されていた。その中にはもちろん「RB大宮」の名前や新エンブレムもきちんと載っている。
グローバルなネットワークの一部となり、生まれ変わった「RB大宮」は近年の低迷を脱していけるだろうか。レッドブルの買収によって大きな翼を授かった大宮への注目度は飛躍的に上がっていくはず。そんな中でJリーグを席巻し、クラブの名を世界に轟かせるような進化が見られることを楽しみにしたい。