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遠藤航が“偽CB”として圧巻のパフォーマンス 「マッチ・フィット」は少しも鈍っていない

森昌利

この試合までの1カ月間で公式戦のピッチに立ったのはわずか2分。それでも遠藤(左)は試合勘を全く失っておらず、攻守にわたってハイレベルなプレーを披露した 【Photo by Robin Jones/Getty Images】

 サウサンプトンとリバプールのプレミア勢が激突した18日(現地時間、以下同)のリーグ杯準々決勝。この試合で敵味方に分かれて戦った菅原由勢と遠藤航は、共に素晴らしいパフォーマンスを見せた。特に今季初めてフル出場した遠藤は、本職ではないセンターバックで起用されながら、約50日ぶりのスタメンということを感じさせないプレーで勝利に大貢献。いくつものメディアがマン・オブ・ザ・マッチに選出した。

冷遇するスロット監督も遠藤を褒め称えた

 英語には“match fit”(マッチ・フィット)という言葉がある。ちなみに英英辞典で意味を調べてみると、「If a football or rugby player is match fit, they have reached a level of fitness that can only be developed by playing matches against other teams」とあった。

 翻訳すると、「もしもフットボール、もしくはラグビーの選手が“マッチ・フィット”に達しているとしたら、それは試合に出場し続けることでしか鍛えられないレベルのフィットネスに達しているということである」となる。

 この文章からもフットボールとラグビーが英国で元来同じスポーツだったことがうかがえるが、マッチ・フィットとはつまり、試合に出場し続けることでしか鍛錬できないフィットネスということだ。日本語でいうところの“試合勘”だろうか。いずれにしろ、練習場では体験できない、真剣勝負の場面を積み重ねなければ身につかない鋭利な感覚ということだ。

 とすると、アルネ・スロット新監督がリーグ戦で完全に控えに回して、今季は出場時間が激減している遠藤航の場合、マッチ・フィットが鈍っていても不思議ではない。ところが、プレミアリーグ対決となったサウサンプトンとのリーグ杯準々決勝で、我らが日本代表主将は驚くほど完璧なまでにマッチ・フィットしていた。

 しかも遠藤はセンターバック(CB)で出場した。ただし実際の役割はいわゆる“偽CB”と呼ばれるもので、敵がボールを持てば、このアウェー戦で相棒となった21歳のCBジャレル・クアンサーの左側で最終ラインの中央を守り、味方がボールを持てばすかさず中盤にせり出し、2点目の起点になったことからも分かるように、ミッドフィールドで攻守の要として機能した。

 最近ではマンチェスター・シティのイングランド代表DFジョン・ストーンズが偽CBとして効果的なプレーをしているが、無論のこと運動量が増え、文字通り複数のポジションをこなすセンスが不可欠となる。

 遠藤はそんな重要な役割を出場時間が激減しているシーズンの半ば、しかもプレミア対決となったリーグ杯の準々決勝で務めた。さらには後半、すでに2点をリードしていたこともあったが、この試合で主将を務めたトレント・アレクサンダー=アーノルドが45分のプレーで交代すると、遠藤はその重責を引き継いでリバプールのキャプテンマークを左腕に巻いた。

 そして90分フル出場して、アウェーでの2-1の勝利に大貢献した。

 集中力と気合いがにじみ出た素晴らしいパフォーマンスだった。特徴である球際の強さを何度も見せて、相手の攻撃をつぶした。強いボールを受けても、ファーストタッチがブレることがなかった。繰り出すパスは鋭く、全く鈍さを感じさせなかった。遠藤はチームの主軸として活躍する選手と変わらぬプレーを見せた。

 こんな活躍をされたら、遠藤を冷遇し続けているといっても過言ではないスロット監督も手放しで褒めるしかなかった。

「今日の試合でもしも誰かを褒めなければならないとしたら、それは遠藤航になる。なぜなら本来のポジションではないところでプレーして、本当にいい試合をした。この試合を見て彼のクオリティの高さが分かるのは無論のこと、人格とメンタリティの素晴らしさも示している」

 それならもっと出番を増やしてくれとも言いたくなるが、これ以上ない賛辞だったことは間違いない。

 冷遇されているにもかかわらず、どんな使われ方をされようが、どんな場面でも100%のパフォーマンスを見せる。そんな遠藤の姿に感動した。

 リバプールの公式サイトをはじめ、遠藤をこの試合のマン・オブ・ザ・マッチに選ぶメディアも多かった。

決定機を生み出す菅原のハイクオリティのクロス

後半途中から出場した菅原(右)は、質の高いクロスでいきなりゴールチャンスを作り出した 【Photo by Liverpool FC/Liverpool FC via Getty Images2024 Liverpool FC】

 一方、対戦相手であるサウサンプトンの菅原由勢のパフォーマンスも、筆者を強く引きつけた。後半16分に出場してその30秒後のファーストタッチからだった。24歳日本代表DFが右サイドのやや浅い位置から素晴らしいクロスを放った。

 このクロスにニアに飛び込んだFWキャメロン・アーチャーが至近距離で右足を合わせたが、リバプールGKクィービーン・ケレハーが抜群の反射神経で、これを右手一本でセーブ。惜しくもゴールとならず、菅原にアシストはつかなかったが、危険な弧を描いたクロスボールのクオリティの高さに舌を巻いた。

 初めてこの目で見た菅原のプレーだったが、プレミアリーグで通用する資質の持ち主であることをいきなり強く認識させられた。今季のサウサンプトンはここまで苦戦が続いているとはいえ、菅原はこのハイクオリティのクロスボールを連発すれば、プレミアデビューイヤーでしっかりと足跡を残すと確信した。

 残念ながらこの試合後も遠藤と話す機会は得られなかった。これは本当に異例の早さだったが、リバプールに飛ぶ飛行機の都合で試合終了の30分後にチームバスがスタジアムを後にした。関係者によると、主役となった試合後、遠藤には談話に応じる気はあったそうだが、今回は物理的に時間がなかったようだ。

 最近、遠藤が地元のポッドキャストに出演した動画を見たが、ここで「とにかく自分ができることを毎日きちんとやるだけだ」と話していた。そうして練習場でも日々全力を尽くす姿勢があるからこそ、サウサンプトン戦でマッチ・フィットしたプレーを見せることができたのだと思う。

 リバプールは年明けの1月8日にホーム&アウェーでトットナムとリーグ杯準決勝を戦う。サウサンプトン戦の活躍で監督の信頼を勝ち取った遠藤の活躍を期待するとともに、今度はぜひとも話を聞きたいと思う。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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