NHK杯2位も…りくりゅうが新しい好敵手を歓迎 結成以来初のミスにも冷静に対処、GPファイナルへ

沢田聡子

「休憩しよう」 ミスへの冷静な対処

男女間の距離を表現したフリー 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 翌9日のフリー、三浦/木原は再び最後に登場。直前に滑ったショート2位のアナスタシア・メテルキナ/ルカ・ベルラワ(ジョージア)が好演技をみせ、142.77という高得点を出していた。りくりゅうがジョージアのペアを上回るためには、スケートアメリカ・フリーでマークした136.44を超える141.16が必要だった。

 男女間の距離を表現する今季フリー『Adios』(マリー=フランス・デュブレイユ振付)は、今までの“りくりゅう”のイメージを覆すような、陰影に富むプログラムだ。ショート同様、最初にトリプルツイストを決めて快調に滑り出したが、ソロのジャンプシークエンスで予定していたダブルアクセルが1回転になる。スケートアメリカで転倒したスロージャンプ・3回転ループは成功したものの、曲のテンポが緩やかになるところで行うペアスピンで、思わぬ落とし穴があった。リンクにあった「溝なのか、ランディングの跡なのか」(木原)に木原のブレードがはまり、体勢を崩して回転が止まってしまったのだ。

「キャメルポジションにポジションチェンジしてから2周目、次のポジションに入る瞬間に、多分溝にはまって足を着いてしまった」(木原)

 結成以来初めてだという、ペアスピンのミス。動揺しかねない場面だが、2人は冷静だった。

「ペアスピン終わった後に一回休憩ポイントがあるんですけど、そこで龍一くんがめっちゃ笑っていたので。『大丈夫だ』ってそこで落ち着きました」(三浦)
「もうどうしようもなかったので。『気持ち切り替えて、休憩しよう』って。音が変わるところで大分余っちゃったので、「休憩するしかないよな」って」(木原)

 演技後ミックスゾーンでこの場面を振り返った際、取材陣に「冷静ですね」と問いかけられた木原は、「32歳なので」と笑っている。

 ソロジャンプ・3回転サルコウを決め、リフトを挟んで行う大技・スロー3回転ルッツは両足着氷になったが、その後は大きなミスなく演技を終えた。何より、リンクを大きく使う“りくりゅう”ならではの伸びやかな滑りが、観客を魅了した。

 演技を終えた木原は、人差し指を立てて悔しそうな顔をした。

「ペアスピンが抜けたので。大きなミスは『その一つだったよね』という話です」(木原)

 三浦/木原のフリーの得点は、137.55。スケートアメリカのスコアは超えて目標を達成したものの、メテルキナ/ベルラワをとらえることはできなかった。

 昨季は結成1年目にして世界ジュニア選手権で優勝、今季シニアデビューしたメテルキナ/ベルラワは、その高い技術と大人びた表現で、ジュニア時代から異彩を放つカップルだった。昨季既に欧州選手権で銀メダルを獲得しており、世界選手権にも出場、7位に入った逸材だ。

 メテルキナ/ベルラワは三浦/木原が優勝したスケートアメリカでグランプリデビューを果たしており、この時はショートで3位につけながらもフリーで順位を落として総合4位だった。しかしGP2戦目で、ペアとしてジョージア初となるグランプリ優勝を果たし、世界トップクラスの三浦/木原と互角に戦える力を示したといえる。

 ショート後の会見で、同席した2位・3位のカップルについて問われた木原は、メテルキナ/ベルラワについて次のように語っていた。

「本当に表現力もスピードも素晴らしいなと常に思いながら、彼らに負けないように僕たちももっともっと頑張らないといけないなと。刺激というよりモチベーションになってくれる、素晴らしいスケーターたち」(木原)

 総合2位という結果になったフリー後のミックスゾーンでは、三浦/木原に対し「追われる立場として、オリンピックに向けてどう戦っていきたいか」という質問があった。

「結果を出すにはコンスタントに演技をこなすことが絶対だと思うので、いい練習を積んで、試合でも練習通りにできるようにしたいと思っています」

 三浦がそう答えるのに続いて、木原は「僕たちはもともと、絶対王者みたいな立場ではなかった」と口にした。

「常に追いかけていく立場で、また新しい素晴らしいライバルが出てきてくれて。また僕たちのチームも常にモチベーション高く、練習すること・試合に臨むことができるので、本当に素晴らしいかなと思います」(木原)

感じた成長、見つけた課題

若いライバルの出現も、“りくりゅう”のモチベーションに 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 木原は、NHK杯を総括して次のように語っている。

「良かった点としては、ミスが出てしまってもそこから崩れることなく、練習でやっていた通常の技にしっかり戻り集中を取り戻すことができたので、本当にそこは成長したなと思いました。ですが、やはりミスが出てしまったので。この2日間で順位にすごく響くミスが2つ出ているので、そこは改善していかないといけないかなと2人で思っています」(木原)

 NHK杯2位という結果により2季ぶりのファイナル進出を決めた2人は、さらなる強化に意欲をみせる。フリーを振り付けたデュブレイユ氏は、指導するアイスダンサーに帯同してNHK杯に来ており、既にノートにプログラムの修正ポイントを書き出しているという。また、ショートについても振付師のボーン氏とブラッシュアップをする予定だ。

「昨年は怪我でグランプリシリーズに出場することができなかったので、またこうしてグランプリシリーズ2戦終えてファイナルにたどり着けたのは、ものすごく嬉しいことだなと思います」(木原)
「今回見つかった課題を、きちんとファイナルでクリアしていきたいなと思います」(三浦)

 追われる立場になっても成長を止めない“りくりゅう”の強みは、常に自らの理想を追いかけ続ける、その姿勢にあるのだろう。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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