今の町田は好調時と何が違うのか? 柏戦で改めて浮上した課題と展望

大島和人

ネガティブサイクルをどう抜け出すのか?

藤本一輝(右)の活躍、好調は明るい材料だ 【(C)FCMZ】

 リーグ戦の終盤になれば町田の攻め手、ボールの動かし方は研究し尽くされている。J1ならば個々がどういうタイミングでボールを離す、この予備動作が入るとこのプレーをするといった「癖」も分析される。柏の選手もサイドで踏み込んで狙う形を「狙っていた」と認めていた。相手の対応を逆手に取れる、別の手で対抗できるのが成熟したチームだが、町田にはそこまでの老練さが身についていない。

 ビルドアップに先回りしてスペースを消される、嫌な方向に誘導される中で、パスミスは生じる。特にSBがサイドハーフに預けるパスを奪われると、2枚が一気に置き去りにされる。柏戦は自分たちの「前への勢い」が逆にひっくり返され、極めて危険な形になっていた。

 自分たちのミスや相手のカウンターが続くと「迷い」「躊躇」が生まれて攻撃の勢いは消える。今の町田からはそんなネガティブサイクルが見て取れる。

 ゴールが決まらなくても攻め切る、カウンターを受けない「いい攻撃の終わり方」をするところが町田の特徴だった。しかし今はその強みが薄れている。特に柏戦はカウンター、サイド攻撃という自分たちの十八番(おはこ)を相手に奪われる展開だった。

 サッカーは攻撃と守備が直結している競技だ。町田の守備は原則が徹底されていて、組織の練度も下がっていない。一方で攻撃の終わり方が悪くなったことで、危険なカウンターを受ける回数が増え、ボールをいい位置で「奪い返す」回数も減っている。

成功していたチーム故の難しさ

経験はチームと選手の糧になるだろうが、まずは残り4試合だ 【(C)FCMZ】

 J1は残り4試合。町田は勝ち点60で「65」の首位・広島と「64」の2位・神戸からやや水を明けられた状態だ。町田はなお3位に踏みとどまっているし、チームが開幕前に掲げていた「勝ち点70」「AFCチャンピオンズリーグ出場」は届く目標だ。優勝の可能性も消えたわけではない。

 とはいえ優勝に手の届きそうな位置から、サポーターの期待値が上がった状況からの転落は明らかに痛い。しかも今の町田は内容的にも苦しんで、分かりやすい打開策があるわけではない。中山雄太やチャン・ミンギュ、柴戸海、安井拓也といった主力の負傷も当然ながら尾を引いている。選手がそれを理由に挙げることはないが、Web上のさまざまな“お叱り”がチームのスッキリしない空気に影響しているのも間違いないだろう。

 完全に壊れているチームならばむしろ再建は容易だ。ただシーズンの大半で成功していた、コンセプトが明確なチームだからこそ、今の町田を「どう変えるか」は難しい調整になる。直面する課題が難しければ難しいほど、クリアしたときに得られるものは大きいのかもしれないが――。町田は黒田監督就任以来最大の「壁」に直面している。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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