激しい逆風にさらされる韓国代表 10月の連戦はホン・ミョンボ新体制の今後を左右する

アジア杯で見られた“世代間ギャップ”はほぼ解消

卓球をするため食事会場からさっさと出ようとしてソン・フンミンに咎められ、イ・ガンイン(左)らが激怒したアジア杯での一件は、もうわだかまりはないようだ 【Photo by Han Myung-Gu/Getty Images】

 もっとも、ホン・ミョンボ監督のチーム統率力を疑う余地はない。

 選手を服従させたり、特定の選手を厚遇するといったことはせず、すべての選手にチームへの献身と犠牲精神を求めるのがホン・ミョンボ監督の指導スタイルで、今回のチームでは、強面の親分肌だが親和性の高いキム・ジンギュ(元磐田など)や欧州(ロシア)でもプレー経験があるキム・ドンジンら現役選手と感覚が近い若手コーチも登用。高圧的に管理するのではなく、規律を取り戻しつつ風通しの良い雰囲気作りに努めている。

 そうした効果もあって、アジアカップ時にはソン・フンミンら30代前後のベテラン組と、イ・ガンインら20代前半の若手との間で見え隠れした“世代間ギャップ”もほぼ解消されつつあるという評価だ。パレスチナ戦前日の練習をこの目で見たが、“ピンポン事件”の軋轢(あつれき)が続いているような印象は受けなかった。

 ホン・ミョンボ監督はまた、肝心要の戦術整備にも着手している。KFAから推薦された外国人コーチも起用。10年から15年までポルトガル代表コーチを務めたジョアン・アロソをアシスタントコーチ兼戦術コーチとして、スポルティングやベンフィカで分析官を務めたティアゴ・マイアを戦力分析コーチに迎え入れた。いずれもホン・ミョンボ監督が自ら欧州に飛び、直接面接して採用を決めたコーチである。

エース不在は痛手だが結果次第では逆風が追い風にも

ハムストリングの故障で戦線離脱中のソン・フンミンは、今回の10月連戦を欠場する。エース不在でも戦えることを証明し、「依存症」との批判を払拭できるか 【写真:ロイター/アフロ】

 ただ、その成果が目に見える「結果」として表れていないのも事実だ。

 初陣となったパレスチナ戦ではキャプテンのFWソン・フンミン(トットナム)を筆頭に、MFイ・ガンイン(パリ・サンジェルマン)、FWファン・ヒチャン(ウルバーハンプトン)、MFイ・ジェソン(マインツ)、MFファン・インボム(フェイエノールト)、キム・ミンジェ(バイエルン)ら欧州組の主力が揃ったにもかかわらず、パレスチナの守備の壁を越えることができなかった。欧州組は韓国入国後2~3日で迎えた試合だっただけに、コンディションが100%ではなかったことを考慮しても、0-0は厳しい結果だったと言えるだろう。

 続くアウェーのオマーン戦では開始10分に先制するも前半終了間際に追いつかれ、その後はなかなか得点できなかった。後半37分にイ・ガンインからのパスを受けたソン・フンミンが勝ち越しゴールを決め、さらに終了直前にも追加点が生まれて最終的に3-1で勝ったとはいえ、エースの1得点・2アシストの活躍がなければさらなるピンチに陥っていた可能性もあるだけに、一部メディアやサポーターからは「ソン・フンミンのワンマンショー」「ソン・フンミンに依存する韓国サッカー」といった指摘も絶えない。

 ホン・ミョンボ監督は「その意見についてはまったく同意できない」と反論しているが、それが余計にファンや一部メディアの反感を買ってしまう悪循環。「韓国サッカー界の永遠のカリスマ」と呼ばれた英雄は何を言っても拒否され叩かれる“嫌われ者”になってしまっているのだ。

 だからこそ、ホン・ミョンボ監督は早急に結果を出さなければならない。規律とチームワークを取り戻し、特定の選手に頼らず戦術的意図が可視化されたサッカーで結果を出し続け、W杯アジア3次予選を突破すること。それだけが自身にふりかかる野次とブーイングを跳ね返し、外野を黙らせる唯一の方法なのだ。

 果たしてホン・ミョンボ監督は逆風のなかをくぐりぬけ、そこから突破することができるだろうか。

 10月10日は敵地でのヨルダン戦、15日はホームでイラクと戦う韓国は、最終予選最初の山場を迎える。ヨルダンにはアジアカップで煮え湯を飲まされ(準決勝で0-2の敗北)、イラクは前出の監督候補にも挙がったヘスス・カサス監督が率いるチームだ。そんな強敵たちと対峙するだけではなく、左足太ももの負傷により所属するトットナムでリハビリ中のソン・フンミン抜きでこの10月の2連戦を戦わなければならなくなった。

 キャプテンとして7年、エースとして12年近く韓国代表をけん引してきたソン・フンミンの不在は間違いなく痛手だ。しかし、結果を出せば「ソン・フンミン頼み」を払拭できるだけではなく、“プランB”やイ・ガンインらを軸にした思い切った世代交代に舵を切ることもできるだろう。10月の結果次第では逆風が追い風にもなりうるのだ。

 まさにホン・ミョンボ監督体制の分水嶺となる10月シリーズ。その結末をこの目で確かめるために、10月も韓国に飛ぶ予定だ。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている

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