新戦力の活躍で昨季王者・広島を撃破 開幕戦で見えた群馬と細川一輝の可能性

大島和人

チームDFの中で果たした役割

加入直後ながら攻守の戦術遂行についても評価されている 【(C)B.LEAGUE】

 守備ではパワーと脚力を併せ持っているところが彼の強みだ。26歳の彼にはまだ学ばなければいけない部分もあるが、とはいえ京都ハンナリーズ、三遠とステップアップする中で、徐々に「バスケットIQ」も上がってきている。

 3日の群馬は広島を53点に抑え、21個のターンオーバーを強いた。群馬のスティールは「13」と異例の多さで、細川も2つ記録している。彼は「本当にたまたま目の前に来たときカットできた」と謙遜するが、彼は守備でもチームの先頭に立っていた。

 広島の山崎稜も細川と同じ3&Dタイプで、昨季のCSではMVPに輝いた選手。群馬にとって守備の優先事項は広島のアウトサイドに「3Pシュートを打たせない」ことだった。山崎も6得点と悪かったわけだはないのだが、「3本しか打たせなかった」ところは守備の成功だろう。

 チーム全体で見ても、この試合の広島は3Pシュートの試投数が19本。36.8%という確率は悪くないのだが、本数が少なかった。細川はこう説明する。

「シューターにつくときは、ドライブをさせて2ポイントを打たせる形で対応しました。『得意ではない方をさせたい』という狙いと、3ポイントは決まると流れが行きやすいからです」

 これは群馬のインサイドDFに自信があるからこその対応でもある。ケーレブ・ターズースキー、マイケル・パーカーは高さだけでなく「手を出すタイミング」が抜群で、ブロックショットの名手。中村拓人、上澤俊喜といった広島のガード陣はゴール下に切れ込んでからのミドルやレイアップを増やしたが、2Pシュートの確率は極端に低かった。

印象的だったという群馬の変化

 細川にとって群馬は古巣だ。彼は群馬県の上武大に在学していた2019-20シーズンに、特別指定選手としてこのクラブに登録されていた。もっとも当時の群馬はB2で、ホームも現在の太田市でなくヤマト前橋体育館。オープンハウスグループの傘下に入って「これから強くなる予感」こそがあったが、まだ練習場も公共の体育館を転々としていた時期だ。

 ピカピカの新アリーナに5000人の観客が詰めかける未来は誰も想像していなかったし、細川も関東大学2部の得点王とはいえ無名だった。当時と今との違いを尋ねると、このような答えが返ってきた。

「(1月の途中から)コロナで中止になったシーズンで、自分はアウェーの試合しか出ていません。場所を変わりながら練習していたことを考えると、環境面も今はここ(オープンハウスアリーナ太田)のサブコートでずっと練習しているので変わりましたね。太田市内を動いていてもサンダーズの旗が色んなところに立っていて、バスケ熱がすごく上がっていると感じて、それが一番印象的です」

課題と広がる可能性

開幕戦のチケットは完売し、4992名の観客がアリーナに詰めかけた。 【写真は共同】

 群馬移籍、復帰の理由についてはこう語る。

「優勝を考えてです。去年はCSに出て、1回戦(クォーターファイナル)で負けてしまったのですが、本当に『優勝したい』という気持ちになりました。群馬のメンバーを見て、ここならチャンスがあるのではないかと思って来ました」

 トレイ、辻といった強烈なライバルについてはこう口にする。

「三遠だったら金丸晃輔さんのようなライバル、超えたいと思う選手がいる方が自分的にはモチベーション上がります。そこも決め手でした」

 自らの課題についてはこう述べる。

「間合いを上手く詰められないときがあって、DFはまだ課題もあると思います。ピック(スクリーナー)に当たってしまうと逆にズレを作って、ミスマッチになったりします。そういったDFなど細かいところができるようになりたい。あとはローテーションも大事になるので、そういう判断を磨きたいですね」

 日本代表はパリ五輪を終えて、間もなく2026年のW杯と28年のロサンゼルス五輪に向けた新チームが立ち上がる。細川も可能性はあるだろうし、彼自身もその意欲を持っている。

「自分はまだアジア競技大会(※若手選手中心で臨んだ2023年9月の杭州大会)だけにしか出ていないので、A代表の方で行きたい思いはあります。チームでやることをしっかりやっていけば、そのチャンスはあるのかなと感じています」

 群馬にとっても細川はCS初出場、そして優勝に向けた「ラストピース」となり得る。同じシューターでも辻とは持ち味が違い、フィジカルで守備にも強みのある彼はチームの幅を広げるはずだ。チームと細川の新しいチャレンジに期待が高まる、そんな2024−25シーズンの開幕戦だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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