週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

【大谷翔平「50-50」の舞台裏・前編】運まで味方した50個目の盗塁に、マイアミを覆った50号の空気

丹羽政善

徹しきれない悔しさ故に饒舌に

 一方、逆の形で勝負の綾が働いたのは、9月17日のマーリンズ戦だった。

 4点ビハインドの三回、大谷の2ランをきっかけに同点としたドジャース。その後も点の取り合いとなり、6対7と1点ビハインドの六回、2死一、三塁という場面で大谷に打席が回ってきた。タイムリーが出れば同点。ドジャースがその後、一気に勢いづく可能性もあった。

 ところが、大谷は三球三振。その後、逆に突き放された。大谷も試合後、本塁打については、「反撃につながる一本だった」と振り返りつつも、「7対6の一、三塁の場面で得点をしたかった」と悔やんだ。

 初球がまさに“綾”だった。

【参照:MLB.COM GAME DAY】

 GAME DAY のデータを見ると、初球はスライダーが外角に外れている。大谷は自信を持って見送ったものの、ストライクと判定されたことで混乱した。

「自分がボールだと判断した球をストライクと判定されたときに、そこを捨てるべきかどうかの判断で、きょうはどちらかというとアンパイアに合わせていった打席が多かった」

 2球目、3球目は見逃せばボール。しかし、初球の判定を考えれば、振らざるをえない。3球目はファールにできれば理想的だったが、チェンジアップにバットが空を切った。九回の打席でも最後、外角低めのボールになるチェンジアップを引っ掛けて一塁ゴロ。

 自分を信じるのか、審判に合わせるのか。そこで振り切れなかった。

「短期的には審判の色を理解して、そこに合わせていくというのも大事。長いシーズンの中で調子を維持するということを考えるなら、自分のストライクゾーン、ボールならボールだし、ストライクならストライクと自分で割り切らなければ」

 決して審判の“色”に合わせるのは、不正解ではない。ただそれは、最適解でもない。

「自分が信じているストライクゾーンを維持する上で大事なので、きょうのことは忘れるのが一番」

 もどかしさを隠せなかった。

 ところで、大谷がここまで明かすのは珍しいこと。審判の判定に腹を立てたというより、どちらかに徹しきれなかったことに悔しさが込み上げてきているようだった。あの場面で自分が打っていれば、流れが変わった。初球の判定で、自分のストライクゾーンが揺らぎ、2球目、3球目は中途半端に合わせてしまった。

 その後悔の念が、言葉の端々に滲んでいた。

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9月19日のマーリンズ戦、1回に今季50個目となる三盗を決めた大谷翔平 【Photo by Megan Briggs/Getty Images】

 ここで冒頭の話に戻ると、その翌日、ラッキーな形で49個目の盗塁を決めたのだが、実は9月19日に決めた今季50個目の三盗もタイミングはアウト。もはや運までも味方し、流れが出来た。

 六回、49号を右翼二階席に放つと、次の打席で50号が出るのではないか。50-50をマイアミで達成してしまうのではないか。

 そんな空気が球場全体を覆い始めていた。

※【大谷翔平「50-50」の舞台裏・後編】は明日9/21(土)の公開を予定しております。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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