バドミントン女子複の櫻本/東野、新ペア誕生のきっかけは「勝湯」トーク

平野貴也

明確だった「右・左」ペアの利点と、種目違いによる課題

右利きの東野(手前)と、左利きの櫻本。「右・左」ペアの組み合わせには利点がある 【平野貴也】

 新ペアを結成することは決まったが、東野はパリ五輪までは混合ダブルスに専念。直後に行われたダイハツジャパンオープンを最後に、渡辺との混合ダブルスペアを解消したが、それまでは、櫻本と練習することはなかった。パリで銅メダリストとなってメディア出演等でも多忙になったが、東野が所属するBIPROGYで10日間ほど練習を行い、全日本社会人選手権に出場した。最初から、やりやすい点と、課題になる点は、明確だった。

 前述のとおり、東野は「左利きの後衛」と組んだときの戦い方は、よく知っている。右利きと左利きの組み合わせは、それぞれがコート内で利き腕のサイドに位置を取れば、相手のストレート返球も、クロス返球もフォアハンドでたたくことができる。東野は、混合で組んでいた渡辺が左利き。国内の団体戦では、中西とのペアで女子ダブルスに出場して日本A代表4組すべてを撃破する活躍を見せたが、中西も左利きだ。

 課題になる点は、東野が女子ダブルスに慣れることだ。混合ダブルスでは、カバー範囲の広い男子選手に後ろを任せて、思い切ってネット前に出ていくことが可能だ。東野の場合は、男子選手の中でもカバー範囲の広い渡辺と組んでいたため、女子ダブルスでは考えられないほどの思い切りの良さが出る。それが、前述の日本A代表4組撃破の背景にある。一方、後衛の櫻本にしてみれば、そんなに広範囲は対応できないというエリアを任されることになる。東野が前に出るタイミングを考えなければ、前衛をかわされるとすぐにピンチという状況に陥りかねない。思い切って前に飛び出す東野の特長を、どう生かすかは、このペアの最初の課題となる。それは、練習を始めた当初から明確だった。

あえて注力しなかった課題部分は、伸びしろ

東野のスピード、櫻本のパワー。互いの特長をどのタイミングで生かすか。連係が磨かれるのは、これからだ 【平野貴也】

 しかし、新ペア初戦となった全日本社会人選手権では、あえて課題解決に注力し過ぎないようにして臨んだ。櫻本は開幕前日に「最初からパートナーに合わせ過ぎてしまうと、お互いに気を遣って(良さが出せないようになって)しまう」と話していた。互いにベテランの域に入ろうとする世代。経験を積んできたことが、組み替えた場合の再構築を焦らず丁寧に進める力となる。

 東野は大会3日目に「混合と違って、すべてのプレーでスピードを上げるのはダメ。(前衛に出て)行く、行かないの判断も難しい。でも、自分の良さを消してしまうと、普通の女子ダブルスになって、良いローテーションは生まれない。自分の良さを消さないところを意識してやっている」と話し、カウンターを受けるリスクを承知で、まずは果敢に前へ仕掛けることを意識していた。

 結果として、決勝戦では、中西/岩永の守備を崩せず、ストレート負けを喫した。それでも、櫻本は「(東野は)ミックスのようなプレーを女子ダブルスにも生かす力があると思っていたけど、いろいろな選手と初めてやる中で、東野選手の前衛は、これ以上の選手はいないと感じた。その前衛を生かせるように、後ろからいろいろなショットを打てれば世界で通用すると思った」と話し、東野も「大会を通して、良い課題を持ち帰れたと思っている。練習を積んでいければ、もっと良いダブルスができると思う」と手ごたえを語った。

 日本バドミントン協会のエントリーミスにより、10月のデンマークオープンに出場できなくなったため、前週のアークティックオープン参加を含めて欧州遠征は取り止め。国際大会デビューは先延ばしになったが、お風呂トークから生まれた新ペアが、ロスを目指してどう進化していくか、楽しみだ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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