SVリーグ初代女王を目指すNECレッドロケッツ川崎 「世界一の成長」戦略に迫る
勝ち残るための3つの大きな柱
地元の小学校に出向き、バレーボールの指導にあたる選手たち 【ⒸNEC RED ROCKETS KAWASAKI】
「今も本当に危機感を持ちながら向き合っています。会社からは十分に理解をいただいていますし、チームとしても非常にやりやすい環境にあるのは確かです。ですが、取り組み一つにしても、同じことを繰り返すのではなく、どんどん進化して、新しいことにトライしていかなければなりません。幸い、今は会社の業績も好調ですが、仮にそこがうまくいかなくなったときにメスが入るのが、スポーツチームではあるので」
そうした歴史的背景や運営に携わる者たちの思いもあり、NEC川崎は今、歩みを進めている。ブランディングに倣うなら“無限に広がる宇宙への航路”といったところか。
そこでは【チームとして収益を上げること】【チームが地域に根差した活動を展開すること】【チームを強化すること】の3つが大きな柱となる。これらは「全部つながっているんです」と中西氏は言う。
「例えば、選手の貴重な時間を使って、なぜ社会貢献活動をやるのか?を考えたときに、やはりそれは自分たちに返ってくるからなんですよね。実際に、神奈川県出身の現役選手からは、『小さい頃にレッドロケッツのバレーボール教室で教えてもらった』ことで憧れを抱き、競技を続けてチームに入団したという話を聞きます。
地域への活動を認めてもらうことで、企業がスポンサーとしてチームと手を取り合ってくださる。それが資金面におけるチームの強化につながります。強化することは確実に勝利を生み、それによってチケット収入のアップやファンクラブの人数が拡大し、それらの資金がまた、チームの次なる活動に充てられるわけです。
どれか1つだけに絞るのではなく、すべてを大きくするのが今の私たちに求められるミッションです。そして、これをやっていかなければ、おそらくSVリーグにおける生き残りに勝てないと考えています」
ともすれば、自分たちがどうあるべきか、と内々に意識がとらわれてしまう可能性だってある。だが中西氏曰く、NECという会社には「視線は外向きに」という言葉が風土として備わっているのだとか。
サッカーやバスケットボールなどスポーツに深い理解を示すホームタウン、様々なかたちで支援する企業、そしてクルーたち。それらに対してはもちろんのこと、これから自分たちが戦うSVリーグへも視線を向けるのである。
初代女王へ、全員で戦う姿勢は変わらない
直近3度の優勝へ導き、いずれも最高殊勲選手賞に選ばれた古賀紗理那の現役引退は今オフ最大のトピックだった 【写真は共同】
とはいえ直近3度のリーグ制覇の立役者となった古賀の引退は、戦力という点で懸念材料になりうると想像できるだろう。絶大な貢献度は言うまでもなく、そのうえで中西氏はこう話す。
「花形選手の存在はあるとはいえ、優勝したシーズンはおそらく古賀選手だけではなくて、周りのみんなもすごいんですよ。選手、スタッフ、フロントのみんなが勝ちにいく、全員で戦える姿勢があって優勝できたと思うんですよね」
強さでいえば、岡田氏が現役当時の1999/2000シーズンは「シーズン全勝での優勝」という金字塔を打ち立てている。「大懸(成田)郁久美さん、竹下佳江さんなど素晴らしいメンバーがそろっていましたし、それはもう練習していましたから」と岡田氏は振り返り、こう続けた。
「ですが、NECは“うまいから強い”のではなくて、選手を“育てて強くする”のが、昔からのスタイルなんです」
これには中西氏も「僕自身、『全員が成長できるように』という言葉が好きなんです」とほほえんだ。
SVリーグは「世界最高峰のリーグへ」を掲げて現在進行形だ。そのなかでNEC川崎はいかなる面で、世界一というキーワードと向き合うのか。中西氏の答えは、こうだ。
「我々としては『NECが世界でいちばん選手が成長できる環境である』ことを目指しています。ここに来れば、世界レベルのプレーヤーになれるし、一人の人間としても成長できる。そういうチームでありたいですね」
個々の成長が、組織をつくる。これまでも、これからも。“世界一の成長”戦略は、NEC川崎の強さの源流だ。