工藤公康と森保一が語る「勝利へのデータ活用術」 監督が抱える共通の悩みとは?
野球、サッカーともにデータ活用の重要性が大きくなってきている。工藤氏、森保監督は勝つためにどのようにデータを分析し、選手に伝えているのだろうか? 【写真:スリーライト】
第1回はサッカー日本代表・森保一監督との対談が実現した。ワールドカップ(W杯)やオリンピックなど国際大会で日の丸を背負って指揮を執り、三笘薫や久保建英など世界の第一線で戦う若い選手らと向き合う森保監督から得られた見聞とは?
本コラムの前編・後編だけではなく、スポーツナビのYouTubeチャンネルでも別テーマで構成した動画(前編・後編)を公開。1時間を越えた名将2人による監督談義を、全4回に分けて余すところなくお届けする。コラム後編の今回は、勝つために膨大なデータをどう活かすのか、負けたら終わりのトーナメントの戦い方、監督同士だからこそ分かり合える「決断」の難しさについて本音で語り合った。
《動画も2本公開中!》
勝つために膨大なデータをどう活用するか
試合中にメモを取る森保監督。データと主観を織り交ぜて采配しているという 【Photo by David Ramos - FIFA/FIFA via Getty Images】
森保 まず自チームにおいては、指輪の形をした特殊な機器で選手たちのコンディションを常に把握して、試合起用の判断に役立てています。オフザピッチの場面でも心拍数を計り、きちんと睡眠がとれているか、しっかりと回復できているか、といったデータを日常的に管理しています。実際に脈拍に乱れが出ている選手が数日後に熱を出したこともあります。過去にも、それで試合に起用しなかったことも数例ありました。
試合中に参考にしているのは、チーム全体の走行距離や選手個々のスプリント回数といったデータです。私たちが采配をするうえで、誰が、どこに、どのようなスピードで走っているのかというデータがとても大切。選手たちが連動して、効率的に動けているかの判断にもなります。またサッカーには、どちらのボールでもない状況が多々あり、そのセカンドボールの回収が試合の流れを大きく左右します。我々のセカンドボールを拾う率が低くなると、それだけ攻撃を受ける回数が多くなります。そこで試合のデータを参考にして、次の試合までにポジショニングやバランスを調整していくことをよく行っています。また、試合前半でのポジショニングや選手間のバランスのデータを見てから後半に修正するなど、ハーフタイムに映像を使って、相手にやられたシーン、自分たちがうまくできたシーンを2、3つくらいに絞って選手に見てもらい、後半に活かすことも実践しています。
工藤 膨大なデータですよね?
森保 そうですね。使うデータを取捨選択しないと頭でっかちになり、データに振り回されてやるべきことが疎かになっては本末転倒です。データと主観とをうまく組み合わせるようにしています。
選手が納得することでプレーの質が変わる
試合中に得られたデータを選手にどう伝えるか。勝つために、その取捨選択が重要となる 【Photo by Stuart Franklin/Getty Images】
森保 おっしゃる通りです。本当にチームがコンパクトになっているのか。サッカーではコンパクトな陣形だと相手は攻めづらいのですが、陣形が広がって間延びしていると相手は広いスペースを使えるので攻めやすくなります。我々がやられた場面ではフィールドプレイヤー全体とゴールキーパーとの距離がどれぐらい離れていたのかなど、我々がいい攻撃をしたときもやられたときも、立ち位置についてのデータがとても参考になります。
工藤 個人の技術ももちろん大事ですが、データで分析した結果を選手にどう伝えるかも大事だと思います。そこは端的にズバリと言うのですか? 「なるほど」とすぐに納得する選手は多いですか?
森保 試合中の修正は端的に伝えますね。特にデータと映像の両方を見せると選手たちは納得します。データと映像を使う意味はすごくあると実感しています。
工藤 選手たちは感覚を頼りにしているところは大きいです。データや映像で「見える化」すると説得力も違うと思います。選手たちが納得したときは瞬時に動きが変わっていくものですか?
森保 説得力と納得はとても大きいです。お互いの頭の中に映像をイメージしながら話すことがあってもいいと思いますが、より明確なものを見ながらお互いが納得することが大事。納得することで選手は迷いなく思い切りプレーができますし、これからはやらなければいけないことかなという気がします。