工藤公康の野球ファイル《シーズン2》

野球×サッカーの名将対談が実現! 工藤公康が共感した森保監督の「今、変わるべき」姿勢

構成:スリーライト

「有意義な時間でした」と、対談終了後に握手する工藤公康氏と森保一監督。お互いに貴重な機会となったようだ 【写真:スリーライト】

 現役通算224勝の大投手、工藤公康氏は福岡ソフトバンクホークスの監督時代(2015〜2021年)にデータやコンディショニング、戦術など独自の理論を築き上げ、7年間で5度の日本シリーズを制覇。監督退任後の現在は野球界・スポーツ界発展のために日々、日本中を駆け回っている。そんな工藤氏が、自身のこれまでの経験や知識を集めた「野球ファイル」に新たな1ページを加えるべく、「今、会いたいスポーツ人」と語り合う新企画がスタート。

 第1回はサッカー日本代表・森保一監督との対談が実現した。ワールドカップ(W杯)やオリンピックなど国際大会で日の丸を背負って指揮を執り、三笘薫や久保建英など世界の第一線で戦う若い選手らと向き合う森保監督から得られた見聞とは?

 本コラムの前編・後編だけではなく、スポーツナビのYouTubeチャンネルでも別テーマで構成した動画(前編・後編)を公開。1時間を越えた名将2人による監督談義を、全4回に分けて余すところなくお届けする。コラム前編の今回は、試合に向けてのシミュレーションやコーチとの関係、日本サッカーの未来についてなど、森保監督の本音に迫った。

《動画も公開中!》

短い準備期間でいかに戦術を落とし込むか

試合に向けた練習で選手に指示を出す森保監督。短い準備期間でどのようにチームを仕上げるのか 【写真は共同】

工藤 今はお忙しいですか?

森保 9月のW杯アジア最終予選に向けて準備に入っているところですね。

工藤 お忙しいところありがとうございます。試合会場に足を運んで、選手たちの状態をチェックしているところですか?

森保 はい。Jリーグの選手はできるだけスタジアムに足を運んで直接見て、海外組は映像を入手してチェックしています。選手個々のコンディションを把握して、選手選考につなげているところです。

工藤 なるほど。森保監督はクラブチームと代表チーム、両方の監督経験があります。その違いはどんなところですか?

森保 試合へ向かう時間軸がまったく違うところですね。Jリーグもプロ野球も、キャンプ期間でしっかりとチームを作ってシーズンに入っていけます。一方、代表チームは、約10日間の活動期間で2試合を戦わなければなりません。選手たちに戦術を刷り込んでいく時間がとても短い。海外組の選手は試合の前日にチームに合流することもあります。その中でいかに個々の役割を理解してもらうか。1、2回のトレーニングとミーティングで呼吸を合わせていかなければならないところはクラブチームと代表チームの大きな違いだと思います。

工藤 たったの10日ですか…。その期間でチーム内の決まりごとや戦術をチーム全体に落とし込めるものですか?

森保 正直、なかなか難しいです。ですので、選手たちにコンセプトをシンプルに伝えることを心がけています。監督・チームによって戦術は様々ですが、サッカーはゴールを奪い、ゴールを守るスポーツです。ゴールを奪うために縦への攻撃を優先させて、それがダメならサイドから、サイドからも行けないならばもう一度やり直す。守備では、相手にボールを奪われた瞬間にすぐ奪い返すことを徹底してもらう。奪えなかったら一度陣形を整えてからもう一回奪いに行く。サッカーは野球と違い常に試合が動いていくので難しいところはありますが、短期間の間に少しでも選手たちが持ち味を発揮できるようにすることが大切なことかなと思います。

新任コーチがチームにもたらしたもの

試合中に名波浩コーチ(中央)と話し込む森保監督(左)。勝つためにコーチとのコミュニケーションは欠かせない 【Photo by Etsuo Hara/Getty Images】

工藤 私はソフトバンク監督時代、打線のつながりや投手継投などを先々までシミュレーションをして、それをチームに共有することを心がけていました。森保監督は試合に向けてどんなシミュレーションをしていますか?

森保 私もいろいろなシミュレーションをして試合に臨んでいます。まずは対戦相手の分析ですね。対戦相手が過去にどの国と試合を行い、どんなフォーメーションで戦ったのか。どんな選手起用をしていたのか。攻撃的なのか、守備的なのか。対戦相手が同レベルの国と試合をしている時、格上と試合をしている時、それぞれ守備的に来るのか、攻撃的に来るのか。相手をしっかりと把握したうえで、我々が何をしなければいけないかを考えます。自分たちがより攻撃的に仕掛けていけるのか、まずは相手の良さを止めなければいけないのか。

 試合前に本当にいろんなことを考えますが、対戦相手も我々のことを分析してくるので、実際に試合が始まってみないとわからないところがあります。試合前に選手たちにはプランAで行くことを伝え、試合が始まって相手の出方を見てプランBに移行していくこともあります。自分たちが試合をコントロールしている時はそのままのプランでいいのですが、劣勢の時はさらにプランCに移行することもあります。

工藤 そのプランA~Cといったものを、どのように選手まで浸透させていくものなのですか?

森保 攻撃、守備、セットプレーなど戦術的なことに関してはほぼコーチに任せています。私が一番に大切に思っていることは、選手たちに落とし込む戦術的なことや、姿勢や態度といったメンタル的なことまで、スタッフ間で共有することなんです。選手たちが監督に聞いても、コーチに聞いても同じ絵を持てることがとても大事。同じ絵を選手たちに落とし込めるように、コーチたちと密にコミュニケーションを取るように心がけています。

工藤 すごいですね! コーチを信頼していても、すぐには自分の考えを浸透できない時もあるかと思います。コーチとのコミュニケーションに結構な時間を使っているんですね。

森保 代表の活動がない時でもオフィスに集まってみんなで話す時間を作ったりしています。私自身は監督二期目に入り、名波(浩)コーチ、前田(遼一)コーチの二名が入れ替わりで加わりました。

 彼らには、カタールW杯までに前スタッフがやってきたことをおぼえてほしいのではなく、新たな価値観をチームに吹き込んでほしいと思っているんです。とにかくチームを勝たせるために、彼らのやりたいことを好きにやってもらう。その中でいかに既存のスタッフが新たなことを吸収して戦術の幅を広げていけるか、ということを二期目に取り組んでいます。

工藤 スポナビをご覧のみなさん、これは本当にすごいことですよ! 普通は「結果を残したんだから大きく変えないで…」と思うところを、「新しいことを取り入れる」ってすごく勇気がいることですよね。

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