4戦全敗! F1のスタートで、ノリスはなぜ失敗し続けるのか?

柴田久仁夫

「レース前はほとんど何も食べられない」

現時点で2勝を挙げているノリスだが、少なくとも2つは勝てたレースを落としている 【©️McLaren】

 それでもノリスは、F1で勝てるようになったからといって、これまでずっと続けてきたやり方を変えることはおそらくないだろう。ちなみに彼は、「自分の弱点を平気で晒す」という点も、他のF1ドライバーたちとは少々違うところだ。

 つい最近の会見でも、「僕はすごくプレッシャーに弱くて、F1デビューから3年目くらいまではすごく苦労した。今でも予選やレースでは、とても緊張する」と発言して、居合わせたジャーナリストたちを驚かせた。

「日曜日のレース前はほとんど何も食べられないし、レース中は集中力を切らさないよう、絶対に何も飲まない」。圧勝したオランダGPも水分を一滴も取らず、体重が2キロ減ったという。

 ノリスの度重なるスタートの失敗は、たとえばハンガリーはギアが低速に入ってしまうトラブルが原因であり、オランダはリアタイヤのグリップレベルの設定ミスだった。決してノリスだけの責任ではない。それでも彼は「こんなことをやっている僕は、まだ世界チャンピオンのレベルにはない」と、自己批判を止めない。

 それに対し、フェラーリでのエンジニア時代にミハエル・シューマッハ、フェルナンド・アロンソ、キミ・ライコネンと一緒に仕事をしてきたステラ代表は、「彼らのような偉大な世界チャンピオンたちと同じ資質を、ランドは持っている。遠からず、F1の頂点を極めることは間違いない」と、エールを送る。

 そして一方で、ステラ代表はこうも言っている。「ランドが今も選手権2位に甘んじているのは、私が率いるチームにも責任がある。明らかにいくつかのレースで、ランドは勝てていた」

ノリスはナンバー1待遇を受けられるか

ノリスの才能を高く評価するステラ代表(写真左)。しかしノリスだけを特別扱いするつもりはない 【©️McLaren】

 ステラ代表の言う「いくつかのレース」に、カナダとイギリスの両GPは間違いなく含まれているだろう。びしょ濡れの路面が急速に乾いていく難しいコンディションのカナダでのノリスは、二度にわたって首位に立ちながら、セイフティカー導入の際のチームの判断ミスで2位に終わった。

 同じく雨のレースだったイギリスGPで、ノリスはフェルスタッペン、そしてメルセデス2台を次々に抜き去り首位に浮上。しかし終盤のドライタイヤへの交換の遅れが致命傷となって、ハミルトンに勝利を奪われた。今回のイタリアGPにしても、「自分たちでも無理なのだから、フェラーリが1ストップ作戦を敢行できるはずがない」という思い込みが、ルクレールの逃げ切りを許した。

 とはいえコンストラクターズ選手権ではレッドブルに8ポイント差まで迫り、首位奪還は時間の問題だ。それほどに今のマクラーレンの戦闘力は、ライバルたちの上を行っている。今後の焦点は、残り9戦でノリスがはたしてフェルスタッペンとの62ポイント差をひっくり返せるかだろう。

 ノリスとマクラーレンがこれまでのようなミスを繰り返さなければ、逆転の可能性は十分にあると思う。しかしその実現には、「ノリスの戴冠を最優先にする体制」に変えることも必須だ。だがステラ代表は依然として、「両ドライバーを公平に扱う」方針を変えるつもりはない。
(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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