F1ドライバーもオリンピックに出たい! F1が五輪の正式種目になる可能性は?

柴田久仁夫

モータースポーツはスポーツではない?

セナ(写真)やプロストらが参加して1993年に行われたワンメイクのカート大会は、パリ市民たちを熱狂させた 【Photo by Jerome Prevost/TempSport/Corbis/VCG via Getty Images】

 マッサがカートでのワンメイクレースにこだわったのも、まさにそこだった。ゴーカートはフォーミュラマシンに比べて単純な機構の上に、車体による性能差が少ない。さらに事前にくじ引きで車体とメカニックをランダムに割り振ることで、ドライバーの腕がいっそう結果に反映する工夫も、マッサは考えていたという。

 そこまで徹底すれば、「イコールコンディションが作れない」という障壁はほぼ乗り越えられると言っていい。それでもIOC(国際オリンピック委員会)が、モータースポーツをオリンピック種目に加えることに消極的なのはなぜか。あくまで推測だが、「モータースポーツはスポーツではない」という根強い偏見があるのではないか。

「ただ運転席に座って、ステアリングやペダルを操作するだけの競技の、どこがスポーツか」。モータースポーツに興味のない人々にも、共通する思い込みかもしれない。F1レースがいかにフィジカルで、ドライバーたちが日々過酷なトレーニングに明け暮れ、超一流の身体能力を備えたトップアスリートであるか。それをいくら説明しても、この種の偏見はなかなか払拭できないだろう。

 ちなみに上述した馬術競技は、オリンピック種目で唯一「人力を使わない競技」であり、「男女の区別がない」点も、モータースポーツと共通している。さらにいえば、選手たちの騎乗する馬は、(当然のことだが)かなりの能力差がある。その意味では馬術競技もまた、道具である馬の能力が結果を左右するハンディキャップスポーツといえないだろうか。

eスポーツの可能性

フェルスタッペンのeスポーツ好きは有名だ。来年のオリンピックeゲームズにも喜んで参加するのでは? 【©Redbull】

 にもかかわらず馬術は、1900年のパリ大会以来オリンピック種目として定着している。奇しくもこの時のオリンピックでは、自動車レースも実施された。パリから南仏トゥールーズまでの往復1448kmの耐久レースに、創業したばかりのルノーをはじめとする55台が参加した壮大なイベントだった。しかし正式なオリンピック種目としては認定されず、開催もこれ1回きりで終わった。
 
 ところがバーチャルの世界では、モータースポーツはすでにオリンピック競技になっている。去年3月に開催された「オリンピックeスポーツシリーズ」で、野球やテニス、サイクリングなどと共に、正式競技となったのだ。モータースポーツ部門で使用されたゲームは、『グランツーリスモ7』だった。

 このシリーズはIOCがゲームパブリッシャーらと連携して設立した世界大会で、先月パリで開かれたIOC総会では、「今後もeスポーツの発展に注力する」ことがあらためて確認された。「オリンピックもデジタル世界に対応する必要がある」と語るトーマス・バッハ会長には、若者のスポーツ離れへの強い危機感がある。そのため来年にはサウジアラビアで、同大会の発展形である「第1回オリンピック・eスポーツ・ゲームズ」が開催されることが賛成多数で決まった。

 eスポーツであれば、オリンピック側がずっと問題視してきたモータースポーツの「弱点」は、完全に解消される。完全にイコールコンディションであり、エンジンも電気も使わない。競技者の純粋な能力で勝敗が決まるからだ。

 それどころか今のF1人気の高さからすれば、モータースポーツはオリンピックeスポーツの花形種目にすらなるかもしれない。現役F1ドライバーが悲願のオリンピック出場を果たし、金メダルを獲得する。あくまでバーチャルの世界ではあるが、そんな光景が現実味を帯びてきたようだ。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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