「アメリカに勝つのならこの試合だった」 元なでしこの宇津木瑠美が唯一悔やむ守備対応

吉田治良

金メダルを目標に掲げたパリ五輪は準々決勝で敗退。熊谷らベテランに、長谷川ら中堅と若手を融合させたチームは世代間バランスも良かったが…… 【写真は共同】

 銀メダルを獲得した2012年ロンドン五輪以来の4強入りを目指したなでしこジャパンだったが、宿敵アメリカに延長戦の末に0-1で屈し、東京五輪に続いてベスト8の壁を越えられなかった。それでも元なでしこの宇津木瑠美は、今大会の戦いを通して未来に大きな可能性を感じたという。ただ一方で、アメリカ戦の失点には悔いも残るようで……。

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防げていたはずだった決勝ゴール

高い集中力で割り切った守備に徹し、アメリカの攻撃を封じ込めたなでしこ。悔やまれるのは、再三のロドマンのカットインプレーから決勝ゴールを許したことだ 【写真は共同】

 過去のオリンピックで一度も勝ったことのないアメリカとの準々決勝でしたが、「勝つんだったら今日かな」と思えるような試合でした。

 立ち上がりからボールは持たれていましたけど、やられる怖さはなかった。日本がうまくブロックを敷いて、しっかりとスペースを埋めるような守備をしていたので、アメリカは攻めあぐねているような印象がありましたね。

 今までの戦い方とは違い、負ければ終わりの決勝トーナメントですから、つなげなければセーフティにタッチへ蹴り出すとか、とにかく日本は勝つための守備を徹底していました。ある意味、国際大会では結果がすべてですから、こうした割り切った守備戦術を採ったことは、個人的には間違いではなかったと思っています。

 活かされていたのは、初戦の教訓です。スペイン戦では、縦のワンツーでマークを剥がされたり、ボランチとフォワードの間で受けられたりするシーンが多かったんですが、その経験が役立ったというか、中盤と前線、中盤と最終ラインの縦のマークの受け渡しが、とてもスムーズでしたね。こうした対応は、これまでのなでしこが苦手としていたところなんですが、この短期間で一気に完成度を高めてきました。

 ただ引いて守って相手のミスを待つのではなく、相手を困らせるようなアグレッシブな守備。アメリカの選手たちはきっと、私たちがテレビ画面を通して見ている以上に、ピッチ上にスペースがないと感じていたと思います。

 それで慎重になったのか、アメリカはリスクを冒してまで無理に攻めなくなった。後半に入ると日本がサイドからフリーで持ち運べるシーンが増えましたが、それもアメリカの両サイドバックが攻撃を自重して、高い位置を取らなくなったからです。

 だからこそ、延長前半終了間際の失点が余計に悔やまれる。あの決勝ゴールを挙げた右ウイングのトリニティ・ロドマン選手は、試合を通して再三右サイドからカットインして左足のシュートという形を見せていました。それまでは運良くシュートが外れたり、ぎりぎりで日本の選手が足を出して難を逃れていましたが、そもそもああいう形を作らせない守備は、試合の中でコミュニケーションを取っていればできたはずなんです。

 彼女にボールを渡さない守備なのか、持たれてもカットインさせない守備なのか、あるいはあえて縦に仕掛けさせて奪い取る守備なのか。もちろん疲労もあったのでしょうが、そういった話し合いができていれば、あのゴールも防げていたんじゃないかと思うんです。

 先制された日本は、延長後半に長谷川(唯)選手や北川(ひかる)選手を下げて、パワープレーで同点ゴールを奪いにいきました。それまで、ライン間でボールを受けた長谷川選手のラストパスから何度かチャンスが生まれていましたが、そういった攻撃よりも前線に放り込んだボールのこぼれ球を拾ってシュートに持ち込むやり方を選択したんです。でも、単純な放り込みをはね返すことに関しては、アメリカの得意分野ですからね。正直、点を取るのはなかなか難しいのかなと思いました。

 長谷川選手と北川選手、さらに80分には藤野(あおば)選手もベンチに下がっていましたから、仮に良い位置でフリーキックを獲得してもキッカーがいない。結果的にそうした機会は訪れませんでしたが、その点も少し気になったことではありましたね。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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