「アメリカに勝つのならこの試合だった」 元なでしこの宇津木瑠美が唯一悔やむ守備対応

吉田治良

若手から伝わったとてつもないパワー

攻守に改善点はあるものの、今大会チーム最年少の18歳古賀(左)をはじめ若手は着実に育っている。宇津木もなでしこジャパンの未来に大きな可能性を感じていた 【写真は共同】

 とはいえ、アメリカを相手に良い試合をしたことは間違いありません。センターバックの南(萌華)選手や古賀(塔子)選手なども素晴らしかったですが、この試合のMVPを選ぶならボランチの長野(風花)選手でしょうか。1次リーグではやや精彩を欠いていましたが、重要な一戦で攻守のバランスを巧みにコントロールしてくれましたね。とにかくよく走っていましたし、チームが一枚岩になって戦えたのも、縁の下の力持ちである彼女の存在があったからこそだと思います。

 それでも結局、東京五輪と同じくベスト8の壁は越えられませんでした。

 今後の課題としては、まず攻撃面でもっと自分たちが主体性を持ってビルドアップし、ペナルティエリアに侵入する回数を増やすこと。今大会で奪った6つのゴールを検証すれば、直接フリーキックから2点、PKが1点、あとはロングシュート、ショートカウンター、そしてクロスから生まれたものが1点ずつでした。理想は人数をかけてエリア周辺を攻略し、2次攻撃、3次攻撃へとつなげるスペインのようなサッカーですが、いずれにしても、もう少しフィニッシュのパターンを増やし、ゴールの可能性を高める必要があるでしょうね。

 守備に関しては、“ぶつ切り”にならないこと。つまりボールを奪っただけでは終わらない、そこから攻撃につながるような守備をしていきたい。そうすれば、試合を通しての守備の負担やストレスは、今よりも軽減されると思います。

 ただ、こうして厳しい注文もさせていただきましたが、私は今大会の戦いぶりを見て、なでしこの未来に大きな可能性を感じているんです。

 特に、1次リーグのブラジル戦で劇的な決勝ゴールを挙げた谷川(萌々子)選手をはじめ、若い選手たちからとてつもないパワーが伝わってきた。「ああ、きっとこの子たちが、なでしこの未来を切り開いてくれるんだろうな」と、途中出場からのほんの数分のプレーでも、彼女たちの4年先、5年先の活躍が想像できたんです。

 それに、守屋(都弥)選手など国内組が、この大舞台でも堂々たるパフォーマンスを見せてくれたことは、普段WEリーグでプレーする選手にとっても大きな刺激になったはずです。

 もちろん、克服すべき課題はいくつかあります。それでも私には数年後、国際タイトルを勝ち取っているなでしこの姿が、はっきりとイメージできました。

(企画・編集/YOJI-GEN)

宇津木瑠美(うつぎ・るみ)

1988年12月5日生まれ、神奈川県川崎市出身。2歳からサッカーを始め、14歳でなでしこリーグの日テレ・ベレーザに入団。21歳でプロに転向すると同時に、フランス女子リーグのモンペリエHSCに移籍する。正確な左足を武器とするMFとして世代別代表でも活躍し、16歳で初選出されたなでしこジャパンでは、2011年女子W杯優勝、15年女子W杯準優勝に貢献した。16年にアメリカのシアトル・レイン(現OLレイン)に加入。21年に帰国し、古巣である日テレ・東京ヴェルディベレーザでプレーする。身長168センチ。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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