“八村抜き“の影響は否めず、反省も多かったブラジル戦 それでも選手が「世界の差は縮まっている」と口にする理由

大島和人

大きく進歩も、特定選手の負担大

渡邊雄太の出場時間は負傷明けながらチーム最多の35分47秒 【写真は共同】

 第3クォーターの10分間で驚異的な活躍を見せたのがジョシュ・ホーキンソンだ。スイッチディフェンスを多用し始めたチームの中で、彼はフロントラインまで相手のビッグマンを追い、しっかりとプレッシャーもかけていた。

 オフェンスも第3クォーターだけで16得点の驚異的な活躍を見せた。この試合は3Pシュートを「6分の5」と高確率で決め、八村不在の攻守を引っ張っている。チームは4点差で第3クォーターを終え、さらに第4クォーター開始直後にもホーキンソンが3Pシュートを決めて76-77まで追い上げた。

 しかし、最終スコアは84-102。日本は「残り5分」で一気に突き放された。ブラジル戦は渡邊、ホーキンソン、河村、吉井裕鷹の4人は出場時間が30分を超えていて、足が止まれば戦術の遂行力も落ちる。全選手のプレータイムが「30分未満」だった相手と比べて、特定の選手に負担がかかっていた。

 それでも「日本らしさ」は出た試合だった。同じ3連敗でも、3年前の東京オリンピックに比べると、見るものを楽しませる展開に持ち込んだ。完全アウェイだったフランス戦と違い、スタッド・ピエール=モーロワの観客も明らかに日本を後押しする空気だった。

浮かび上がった課題と日本バスケの針路

ホーバスHCは3年で日本の特徴を生かすスタイルを浸透させた 【写真は共同】

 いつまでも「右肩上がり」が続くはずはない。2028年のロス五輪に再び「自力」で出場権を得ることは、決して容易ではない。

 とはいえ日本バスケは2016年のBリーグ誕生と軌を一にして、急速にレベルを上げている。アジアでも中国や韓国、フィリピンの遅れをとっていた状況から「世界と普通に戦える」レベルまで来た。

 W杯に続いて驚異的な活躍を見せた河村を筆頭に、新しい人材も台頭しつつある。河村はこう述べる。

「もちろんすごく悔しい結果にはなってしまったんですけど、日本のやっている方向は間違ってないと思っています。初めてのオリンピックでしたけど、想像以上に日本と世界のレベル差は縮まってきているなと感じました。この経験を無駄にせず『このオリンピックがあったからこそ成長できた』と振り返られる大会にしたいです」

 2028年のロサンゼルス五輪を33歳で迎える渡邊雄太はこう口にした。

「JBA(日本バスケットボール協会)も含めて、いろいろと話していかなければいけないなとは思いますけど、オリンピックで合計6連敗している事実は変わらないので、ロスも目指したい気持ちはもちろん強いです」

 そして、ホーバス監督との3年間をこう振り返る。

「『これが自分たちの戦い方だ』という日本のバスケットを定着させてくれたコーチだと思います。この戦い方なら世界と戦えると自分たちに対して示してくれた。今後、トムがまだ男子のHCをやるのか、分からないですけど、僕は間違いなく彼のもとでプレーできて本当に幸せでした」

 筆者が話を聞いた選手たちは、手応えより悔しさが強い様子だった。それは本気で勝利を目指し、勝利の可能性がある戦いをしたからこその「質が高い悔しさ」だろう。

 満足をするのはまだ早い。不運があっても勝てるレベルにならなければ、八村やホーキンソン、河村に依存している状態を脱しなければ、世界で安定した戦いはできるチームにはならない。だとしても日本バスケの針路は見えた。努力の方向性がはっきりしているのならば、あとは一歩一歩前に向かうだけだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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