週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

大谷翔平、今永昇太らの会見ラッシュで、記者席のスコアブックはほぼ白紙!? MLBオールスターゲームの舞台裏

丹羽政善

今年のオールスターゲームで先制3ランを放ち、笑顔を見せる大谷翔平 【Photo by Mary DeCicco/MLB Photos via Getty Images】

 深夜1時前、帰ろうと荷物をまとめていて、ふと目に留まったスコアブックはほぼ白紙。一回表しか書き込まれていなかった。オールスターゲーム取材の実態である。

 7月16日(現地時間、以下同)にテキサス州アーリントン、グローブ・ライフ・フィールドで行われた今年のオールスターゲームは、大谷翔平(ドジャース)が先制3ランを放ったことで、例年以上の忙しさ。

 一回表が終わると、「先発したコービン・バーンズの会見が、10分後にア・リーグのクラブハウス前で行われます」とのアナウンス。さっそく記者席から会見場とクラブハウスがある地下へ向かった。大谷には四球を与えただけなので、特に絡みのエピソードはないのだが、6月末に双子が生まれたばかりで、少しでも家族と過ごしたいバーンズがテキサスに着いたのは当日の午前11時。1イニングを投げ終えると、試合途中で球場をあとにし、夜の便でそのまま自宅があるアリゾナへトンボ返りした。

「ようやく、どっちがどっちか、わかるようになったかな」

 記者席に戻って、そんなほのぼのとした音声ファイルをおこし始めていると、大谷が三回の2打席目に球宴初本塁打を放った。仕事を中断し、そのまま右翼席へ向かうと、ホームランボールを捕ったファンを探した。

 争奪戦を制してボールを手にしたのは、モンタナ州から来たというクリス・ハドルストンさん。「オールスターゲームのチケットは、妻から40歳の誕生日プレゼントとしてもらったんだ。そうしたら翔平のホームランボールまで手に出来た。最高だよ」。

 角度良く上がった打球が、自分の方に向かってきた。「チャンスがある」。そう思って捕球体制に入ったが、そこからは押し合いへし合い。足元に転がったボールをつかもうとすると、「20人ぐらいが覆いかぶさってきた感じだった」。なんとか手にした記念球は、「一生の思い出。ずっと手元においておくよ」。

 その回の終了を待って話を聞き始めたが、イニング間では終わらなかった。しかし、ハドルストンさんは嫌な顔ひとつせず、取材に応じてくれた。

 ファンの取材を終え、記者席に戻ろうとエレベーターの上りボタンを押したが、気づくと試合は3対3の同点に。ナ・リーグが勝てば、先制本塁打を放った大谷がMVP(最優秀選手賞)を獲る可能性が高い。その場合、大谷の会見は試合が終わってから。

 エレベーターの前まで来て、一度は上りボタンを押したが、同点となったことで、大谷がMVPを獲る可能性が低くなった。勝ち越し打を放った選手の方が断然有利だからだ。ということは、すぐにでも会見が始まるかもしれない。そう考え、下りボタンを押し直す。結局、その下りエレベーターに乗ってから、試合後の取材を終えるまで、記者席に戻ることはなかった。もちろん、スコアブックは机の上に置きっぱなしである。

今永昇太がオールスターゲームで得たもの

MLB移籍1年目でオールスターゲーム出場を果たした今永昇太。1イニングを投げ、無安打無失点に抑えた 【Photo by Daniel Shirey/MLB Photos via Getty Images】

 予定通り四回裏、今永昇太(カブス)がマウンドに上がった。クラブハウス前にある小さなモニターでチラチラ見ていたが、やがてドジャースの広報が姿を見せた。大谷の取材がどうなるのか確認すると、「まだMVPの可能性があるので、その場合は試合後」と話し、続けた。

「MVPの可能性がなくなれば、交代後。場所は追って連絡する」

 そんなやり取りをしているうちに、あっという間に今永が1イニングを三者凡退に抑え、マウンドを降りた。ややあってこんなアナウンスが。

「今永昇太は10分後、会見場で会見を行います」

 ナ・リーグのクラブハウス前から、今度は会見場へ急ぐ。まともに登板を見られなかったが、「この2日間で見た最高の景色は?」と聞いてみた。

 今永は少し考えてから、こう言葉を紡いだ。

「僕は、米国に来る前は米国の野球を知らなかったので、豪快さだったり、パワーとスピードがもの凄いと想像して米国に来ましたけど、きょうの試合前でも選手が一人一人ウオーミングアップをしていて、メジャーのトップ、オールスターに選ばれるような選手でも、どの試合でもしっかり準備している。それを勉強できたので、フィジカルに劣る自分が準備を適当にできないなというのは、この2日間で感じました」

 大谷のホームランについて、こう話したのも印象に残った。

「彼はこの場でもさらにスターになってしまうのかという、ちょっとジェラシーを感じました」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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