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打率トップに急浮上 イチローに憧れて育ったイエリチが、大谷翔平の三冠王を阻止!?

丹羽政善

7月6日のブリュワーズ戦で28号本塁打を放った大谷翔平(ドジャース)。MLB通算200号まで、あと1本と迫った 【写真は共同】

 イチローさん(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)がマーリンズに入団してしばらくした頃のこと。2018年にナ・リーグのMVP(最優秀選手)を獲得するクリスチャン・イエリチ(現ブリュワーズ)のロッカーに、見慣れたユニホームがかかっていた。

「あれっ? それって」と声をかけると、彼はチラッと見せてくれた。それは紛れもなくマリナーズのユニホームであり、背番号にサインが入っていた。

「イチローは別格。子供の頃から憧れてきたから」

 イチローさんがマーリンズに加わったのは2015年だが、キャンプ初日からイチローさんの動きを追う彼の視線は、ファンのそれだった。

「まさかチームメートになれるなんて。イチローがメジャーでデビューした頃、僕はまだ9歳とかだった。それでも他の選手との違いは分かった。話しかけるのも緊張するよ」

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マーリンズ時代の2016年8月30日、本塁打を打ったイエリチ(左)を出迎えるイチロー(右) 【Photo by Jim McIsaac/Getty Images】

 イチローさんが中心となって侍ジャパンを率いた2006年と09年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)連覇も「衝撃的だった」という。「日本の野球は、少し違うというか。細かいところにこだわりがあって、いつかあのユニホームを着てみたいと思った」

 彼は、母方の祖父が日本人という日系三世。厳密には本人、もしくは両親に日本国籍がなければWBCの出場資格はないが、当時は例外が認められるケースもあり、本人も「いつかは」とその気だった。

 2016年夏、イチローさんがメジャー通算3000本安打に迫ったとき、当時、日本代表の打撃コーチだった稲葉篤紀さんが取材に来られていた。そのことをイエリチに伝えると、「えっ!? 挨拶したい!」とすぐに腰を浮かせるほど。実際にフィールドで挨拶したときには、「代表選手を選ぶ際は、ぜひ、自分にも声をかけてほしい」と訴えている。

 稲葉さんは、「僕にはなんの権限もないので」と困惑。その翌年の春、気づいたらイエリチは「USA」のユニホームを着ていたのだが、2年前にはイエリッチの代理人が侍ジャパンの関係者に連絡を取り、改めて代表入りの意志があることを伝えている。

三冠王に肉薄したイエリチ

 少し前置きが長くなったが、イエリチは球団売却に伴ってマーリンズが解体された2018年にブリュワーズへ移籍。その1年目に首位打者を獲得したのだが、それはやや残念な結果でもあった。

 シーズン161試合目を終えた時点で打率1位。首位打者はほぼ確定しており、36本塁打はカージナルスのマット・カーペンターと並んでトップタイ。109打点はカブスのハビエル・バエス(現タイガース)に2点差で2位。つまり、2012年にミゲル・カブレラ(タイガース)が達成して以来、史上11 人目(打点が正式記録となった1920年以降)の三冠王が、視界に入っていた。

 ブルワーズがロサンゼルスを訪れていた先週末、イエリチと会ったときに当時の話になったのは、その時点で大谷翔平(ドジャース)が本塁打トップ、打率と打点でともに僅差の2位だったことから、イエリチが「凄いな、翔平は」と口にしたことがきっかけだったが、彼はこう振り返った。

「三冠王は、本当に最後の最後まで、意識していなかった」

 本当に?

「そもそも三冠王なんて、非現実的な目標だ。でも、最後から2〜3試合目だったかな。2本塁打を打ったとき、『あれっ? 行けるんじゃないか?』って思った」

 その2本塁打が161試合目のこと。その時点でカーペンターに並んだイエリチだったが、ロッキーズのノーラン・アレナド(現カージナルス)が、タイブレークを含む最後の3試合で4本塁打を放ったことでかわされた。打点はタイブレークの163試合目で1点差まで迫ったが、バエズに逃げ切りを許した。

「もうあんなチャンス、ないかもしれないからもったいなかったけど、意識していたら、あそこまで迫れなかった」とイエリチは言う。「まだ、シーズンは2〜3ヶ月もある。翔平も今の時点では、全く意識していないと思うよ」。

 大谷本人も現時点では、「もちろん良い成績を残せれば良いかなと思っていますけど、実際自分がどのくらいの数字なのかはちょっとまだ把握していない」と気にする素振りはない。「(三冠王は)自分の中でパッと思い浮かぶ感じではない。他の人と比べてということもない」

 実際、現実味が増すとしたら、9月中旬になってからだろう。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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