清水邦広が感じる男子バレー代表躍進の要因「僕が代表にいる間に感じた転機は、2014年に…」

米虫紀子

パリ五輪は群雄割拠 日本は世代交代が成功

――パリ五輪で日本がメダルを目指す上で、ライバルになりそうなチームは?

清水 今回の五輪は、世界ランキング10位以内に入っているようなチームは、どこがメダルを獲ってもおかしくないというぐらい、実力は拮抗していると思います。イタリア、ドイツ、フランス、ポーランド、日本、スロベニア、ブラジル、アメリカといったチームですね。今日は勝ったとしても、次の日に対戦したら負けるかもしれないというように、本当にどちらが勝ってもおかしくないレベル。

 そういう相手に勝つことによって自信がつくものですが、日本は昨年(ネーションズリーグ予選ラウンドで)ブラジルに勝って、(ネーションズリーグ3位決定戦で)イタリアにも勝ちました。強豪チームを倒していくことで世界ランキングが上がっていって、大きな自信になったと思います。そういう意味ではポーランドにも1回勝っておきたいなというのがあるんですけどね(今年のネーションズリーグ予選ラウンドで対戦したが0-3で敗戦)。

 そういう力が拮抗した出場国の中でも、一番うまく世代交代できているのは日本なんじゃないかと思います。あとは、イタリアですかね。若いチームは勢いがあるし、どんどん吸収するので成長する速度も早い。もちろんベテランチームの良さもあるんですけど、若いチームは、相手からすれば怖さがあると思うので、そういうところにも僕は期待したいなと思います。

――その日本がメダルを引き寄せるためにはどんな戦い方が必要でしょうか?

清水 日本の勝ちパターンは、まずサーブで崩して、ブロックをしっかり跳んで、ブロックでタッチを取ったり、取れなくてもブロックを抜けたスパイクを堅いディフェンスで拾う。そしてつなぎですね。セッターの関田誠大選手のトスはもちろんですが、誰がトスを上げても、スパイカーがしっかりと打てるところまで正確に持っていって、スパイカーは何度もリバウンドを取って、最後に決め切る。そうして粘り強く長いラリーを制することができれば、どのチームにも勝てると思う。やはりサーブとディフェンスが鍵を握るんじゃないかと思います。

 ただ、今年のネーションズリーグ予選ラウンドのドイツ戦のように、相手のサーブレシーブが良くて、サーブがあまり機能しない試合でも、要所でブロックで止めて流れを引き寄せていた。そのあたりの駆け引きは、日本は上達しているなと感じました。どこかがダメでも、ディフェンス、ブロック、スパイクなど他の部分でカバーできるし、個人をチームでカバーするということもできているんじゃないでしょうか。

――「サーブが良ければどんな相手にも勝てる」というサーブ次第の時期もあったと思いますが、その次の段階に入っているということでしょうか。

清水 そうですね。サーブが入れば勝てる、というバレーから、今はサーブが良くなくても、違うところで仕掛けていくことができているので、それも強さの一つの要因なんじゃないかと思います。

――それができるようになったのは、ブロックの要であるミドルブロッカーの成長があったからでしょうか?

清水 はい。ミドルブロッカーの存在感が本当に大きくなりました。ブロック力だけでなく、攻撃面でも、ラリー中のクイックの決定力も高くなりましたし、それをちゃんと使える関田選手のトス回しもいい。相手の高さのあるブロックがマークしてきていても、打ち分けられるミドルの小野寺太志選手、山内晶大選手、髙橋健太郎選手の存在感は年々大きくなっていますね。

――「バレーにはあまり詳しくないけれど、パリ五輪のバレーは観たい!」という人にオススメの、日本バレーの注目ポイントはどんなところでしょうか。

清水 やっぱり一番は、日本の強みであるディグ(スパイクレシーブ)でしょうか。相手がどんなに高いところから強いスパイクを打ってきたとしても、拾えてしまう。それはディグ力が高いだけでなく、ブロックとディグの関係がうまくできているからでもありますし、相手のデータを分析して、しっかりと守備陣がスパイクのコースに入っているから。

 落ちそうなボールにも、みんなの身体能力の高さを活かしながら、必死に飛び込んで拾ったり、本当に粘り強いバレーをするので、『え? まだ落ちないの?』という場面がたくさんあります。しかもそこから最後に決めきることができるスパイカーもいるので、長いラリーを制することでどんどん盛り上がる。そこは魅力ですし、注目してもらえると面白いんじゃないかと思います。

――今の日本代表には清水選手が一緒に戦ってきた選手も多くいますが、パリ五輪に向かう代表選手たちにメッセージをお願いします。

清水 今の日本代表は“歴代最強”のメンバーが揃っているので、自信を持って戦ってほしいなと思います。本当に期待が高まっていますし、プレッシャーもかかってくると思いますが、とにかく一生懸命プレーすることで、魅せるバレーや、何かが伝わる試合ができると思う。そういう試合を一つでも多く見たいですし、みんなでつなげた思いを、プレーで示してほしいなと思います。

清水邦広(しみず・くにひろ)

【© OSAKA BLUTEON】

1986年8月11日生まれ、福井県出身。福井工大附福井高校、東海大学を経て2009年にパナソニッ クパンサーズ(現・大阪ブルテオン) に入団。大学在学中の2007年に20歳の若さで代表に選出され、 2008年には北京五輪にも当時代表最年少(当時)で出場。以降も代表の中心選手として活躍し、2021年に開催された東京五輪にも34歳で出場。大会終了後に代表引退を表明したが現役は続行し、38歳となる今季もプレーを続けている。

書籍紹介

【写真提供:Gakken】

世界上位16か国が参戦するネーションズリーグで史上初の銀メダルを獲得。パリ五輪2024に向け、空前の盛り上がりを見せているバレーボール男子代表。不動のWエースとしてチームを牽引する石川祐希選手、髙橋藍選手を筆頭に、人気実力ともに史上最強のスター軍団のすべてを豊富なビジュアルとともに、どこよりも早く、そしてディープに総力特集。

パリ五輪2024で52年ぶりのメダル獲得を目指して躍進を続ける、男子バレー日本代表の今を知ることができる永久保存版的な内容になっています。

2/2ページ

著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント