“お家芸”の男子体操に高まるパリ金メダルの期待 代表5名の「バランス」が強みに

大島和人

チームを引っ張る橋本大輝

橋本大輝はNHK杯でチームメイトを「サポート」する側に回った 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 五輪の体操競技は団体、個人総合、種目別という順番で行われる。団体はチームの中からその種目を得意とする3名をピックアップして演技させる仕組みだ。杉野と谷川航の存在により、オールラウンダーの橋本大輝を休ませる、個人総合や種目別に向けて負担を軽くさせることもできる。

「橋本選手を変えられるかもしれない種目はつり輪と平行棒です。そこで橋本選手よりも取れる可能性がある3人がいることがバランス的に大きい。そこが個人総合、種目別にも影響する可能性はあると思っています」(水鳥強化本部長)

 橋本は右足中指の負傷で欠場となったが、大会中はセントラルスポーツのチームメイトをサポートし、取材にも応じている。

 指の状態を問われた彼はこう答えていた。

「握ったらちょっと痛いかなというくらいです。皆さん結構心配してくれるんですけど『そんなにひどくねえよ』と僕は思っています(笑)今は無理する必要はないことも分かっているし、目の前でやるべきことを積み上げていけたらいい。着地に関しても『回って止める』のでなく、上からジャンプして止めたり、そういった基礎を何回でも反復できます」

 水鳥強化本部長も、こう口にしていた。

「橋本に関しては、世界最高レベルのDスコア(難易度)と、それを試合でやり切る力があります。このチームのエースとして、チーム戦はもちろんですけど、個人総合、鉄棒も含めて、金メダルを目指して日本を引っ張ってもらいたい」

 橋本は間違いなく日本代表を引っ張る存在だが、今回のチーム構成を見ると「チームに助けられる」部分も出そうだ。

団体総合のライバルは中国

水鳥強化本部長が団体総合警戒するのはまず中国 【写真は共同】

 日本の体操界が重視するのは、何と言っても団体総合だ。金メダルを獲得した2004年のアテネ大会から、08年の北京大会と12年のロンドン大会は銀、16年のリオデジャネイロ大会は金と来て、21年の東京大会はわずか「0.103点差」の銀メダルだった。つまり日本は直近5大会中2大会が金メダル、3大会が銀メダルという体操王国だ。

 また東京大会はROCとして団体総合の金メダルに輝いたロシアが、パリ大会を欠場する。パリの金メダル争いは、日本と東京大会・銅の中国による一騎打ちとなる公算が大きい。

 水鳥強化本部長はメダル争いについてこう分析する。

「東京は惜しくも0.103点の差で金を逃してしまいましたが、今回はそのメンバーが3人(橋本大輝、萱和磨、谷川航)も入ってきてくれています。リベンジといいますか、団体の金メダルをしっかり取れるように準備したい。それぞれ個人でも力がありますし、橋本選手の個人総合、鉄棒をはじめとして狙えるメダルがあります。杉野選手はあん馬、鉄棒(のメダル)を狙えますし、(谷川)航選手も跳馬を狙えます」

 ライバル中国について、彼はこう分析する。

「団体の5名がまだ誰になるかは分からないですけど、最新の大会でのシミュレーションで考えると、中国はすべてが揃えば日本とほぼ同じか、1点以内くらい上の得点を取れる可能性があります。ただ日本の強みは補い合うことができる、調子によって(出す選手を)変えられる部分です」

 中国が仮に平行棒を得意とする鄒敬園など「スペシャリスト」を団体に起用すれば、最大値は高くなる。一方で層の薄い種目が生まれることで、下振れが起こる可能性も上がる。中国がオールラウンダーを起用してリスクを抑える可能性もあって、そこは未知数の部分だ。

 いずれにせよ日本が団体総合、個人総合とも金メダルの有力候補であることは間違いない。

東京大会のリベンジを

萱和磨は東京五輪のリベンジを強く期している 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 体操選手は基本的には冷静で、他競技のような「煽り系」のコメントをするタイプが見当たらない。どちらかというと感情、芯の強さを内に秘めたタイプが多いのだろう。

 そんな中で萱和磨は静かな口調ながら、パリへの強い思いを報道陣に語っていた。

「僕はメダルに興味がないし飾らないのですが、(東京五輪の)銀メダルだけは飾っています。SNSのトップ画像も、オリンピックのものです。『やり残したことがある』ことを3年間、1日1秒たりとも忘れないために置いています。東京の借りを返すのはもちろんですけど、金メダルは自分の夢です。アテネの金メダルを見て体操を始めて、自分はその夢を追いかけて今も続けている。そこは絶対に忘れないで、パリを戦いたいと思います」

 橋本大輝は右手中指の負傷、岡慎之助は腰痛と、日本代表に不安がまったくないわけではない。しかしパリ大会は経験者と新鋭、オールラウンダーとスペシャリストという具合にバランスの整ったメンバーを組める。パリ大会も今までの五輪と同じように、「日本のお家芸」が我々を惹きつけてくれそうだ。

2/2ページ

著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

新着記事

コラムランキング