町田の快進撃を支える「直線的でシンプル」な攻撃 サイドから生まれる得点と好循環

大島和人

サイド攻撃の「副産物」も

両SBの献身的なサポートがアタッカーを生かしている 【(C)FCMZ】

 川崎フロンターレ戦(4月7日)の1点目、FC東京戦(4月21日)の2点目、C大阪戦の1点目と、町田は両サイドの縦関係からロングカウンターを決めているシーンが目立つ。どのゴールもSBやCBが「使われる側」のスピードを引き出す配球をしていた。

 林は明かす。

「基本的に僕たちのウイングはどんどん仕掛けるタイプです。彼らを単騎で行かせつつ、そこが詰まったときにはSBが後ろでサポートする。ワンタッチクロス、インナーラップからのクロス(といった選択肢)を保険として作っているイメージです」

 SBがサイドアタッカーの近くに寄りすぎると、DFが集まって逆にスペースを消してしまいかねない。距離が空きすぎると、詰まったときの「逃げ場」がなくなる。町田の両SBを任されている鈴木と林は、目立たなくても忠実で、なおかつ程よい距離感を取って2列目のアタッカーを生かしている。

 サイド攻撃、縦関係の崩しには別のメリットもある。黒田監督はこう説明する。

「中、中で行くと(相手に奪われて)カウンターを受けることもあります。我々は(オ・)セフン一辺倒にならずに、しっかりと外回しの中から、ポケット(ペナルティエリア両脇のスペース)を突いていきたい。相手が苦しんでコーナーキック、またはロングスローとなるように(町田ボールを)かき出さなければいけない局面を多く作る狙いです。そうすれば我々の土俵でサッカーができます」

 サッカーの中でカウンターにつながる最悪の奪われ方を例に出すなら、それは「自陣の低い位置」「中央」で、ゴールを向いて踏み込んで奪われる形だ。それと逆で、サイド攻撃はカウンターを受けにくいメリットもある。相手を「後ろ向き」にさせられれば、なお奪った後の攻撃を遅らせることができる。

 さらにスピードのある突破からは、相手DFが弾いて逃れる形が生まれやすい。副産物として町田の強みであるコーナーキックやロングスローが増える。こうして黒田ゼルビアはサイド攻撃から様々な好循環を生み出している。

シンプルな攻撃が成功する理由

左SB林幸多郎は現時点でチーム唯一の「フル出場選手」でもある 【(C)FCMZ】

 このようなアタックは前後左右に細かくボールを動かして守備組織を攻略するパスワークと違い、直線的でシンプルな狙いだ。しかもサイドは中央のエリアに比べて、ゴールまでの距離が離れている。相手DFが揃う前に、少ないボールタッチでフィニッシュまで持ち込まなければゴールに結びつかない。「ローリスク・ローリターン」なアタックと言っていいかもしれない。

 しかし町田はスピード、運動量、忠実で素早い動き出しをアドバンテージにして、シンプルなアクションを何度も成功させている。サイド攻撃は大きな得点源であるだけでなく、コーナーキックやロングスローを増やす源泉だ。町田が快進撃を見せているかなり大きな理由がSBとサイドアタッカーの能力、献身、連携にある。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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