4シーム被打率「.714→.143」に劇的な改善 山本由伸の好投支える最年長捕手の老獪なリードに迫る
MLB平均に近い山本の軌道
これがもし、4シームの軌道の変化に起因するものであるなら、話はわかりやすい。投球回数を重ね、ようやく4シームにキレが戻ってきた――ということであるならば。そこで、スミスがマスクを被った4月12日と4月19日の試合と、バーンズがマスクを被った4月25日と5月1日の試合における軌道データを比較してみた。
① 回転方向:12:00であれば、右投手でも左投手でもきれいなバックスピンがかかっていることになる。通常、右投手が投げる4シームであれば、投手側から見てやや軸が右斜めに傾く。その傾きが大きくなれば、右に曲がる変化量も大きくなる
② エクステンション:ボールをどれだけプレートから離れた距離で離しているか
③ 縦横の変化量:リリースポイント、球速、球種などが同じで、一方は無回転。一方は、実際に回転がかかっているとする。重力のみが作用した無回転のボールが、ホームベース上のどの地点を通過したかが基準で、実際のボールが通過した点との差が縦横の変化量
④ VAA(バーティカル・アプローチ・アングル):打者に到達したときの投球角度。もしも地面と完全に平行であれば0°。上から投げ下ろすタイプの投手であれば、当然、角度が大きくなる
⑤ 回転効率:回転数がいかに効率的にそのボールに加えられているかどうか。回転軸が進行方向に対して90度であれば、回転効率は100%。回転軸が進行方向と一致している場合は0%。この場合、ジャイロボールとも呼ばれる。これは試合ごとには算出できないので、平均をそのまま掲載した
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データを見ると、回転方向の傾きがわずかに小さくなっているので、その分、横の変化量が3cm小さくなっていることの説明になる。明確な変化はこれくらいだが、これだけで4シームの被打率が3割近くも下がった理由としては、説得力に乏しい。
もともと、山本の4シームの軌道はメジャー平均に近い。縦の変化量のMLB平均は約41cm、横の変化量は約18cm。一方で今永昇太(カブス)の場合、縦の変化量は47.5cm、横は25.3cm。平均とは約ボール1個分異なる。
VAAの値も山本はほぼメジャーの平均値だが、今永は試合によっては-4.0を切る。高めであれば打者がホップしていると錯覚するレベルで、仮に山本の4シームの質が今永のような数値になっていれば、色々と説明もつくのだが……。
バーンズはピッチトンネルを意識
スミスがマスクを被っているときでも、左打者には4シームを打たれていない。4月12日と4月19日の2試合の被打率は.143。一方で右打者は.714。ということは必ずしも質の問題ではない。
そこで、スミスとバーンズが、右打者に対してどんなコースに4シームを要求しているかをそれぞれ調べると、わかりやすい結果になった。
スミスとバーンズの右打者への4シームコース別配球分布(左図:スミス、右図:バーンズ)
冒頭でフレーミングに関して2人にあまり差がないと紹介したが、外角はバーンズが得意とするところ。際どいゾーンであれば、74%の確率でストライクにしている(Baseball Savantフレーミングデータ参照)。実際、ボールをストライクと判定させたこともあった。そうなると打者は、手を出さざるを得ない。ボール球を振らせてファールになるケースもあった。
4シームそのものは相手が見慣れた軌道ではあるものの、ボール球を振ってくれるなら、山本に有利となる。また、バーンズのほうが、ピッチトンネルを意識した配球をしている。
4月6日のカブス戦のこと。この日もバーンズと組んだが、鈴木誠也と対戦した五回の三打席目、山本はカウント1-1のときに外角高めから曲がり落ちるカーブを投げ、これがファールになった。すると5球目には、3球目のカーブが曲がり始めた高さに揃えるかのように真っすぐを投げている。見逃せばボールだったが、鈴木には3球目のカーブが頭によぎったのだろう。振り遅れて三振した。
偽装、伏線。そういう配球が、バーンズのほうが長けていると映る。それを経験の差とくくるのが適当なのかどうかわからないが、打つ方はほとんど期待できないバーンズが、なぜ10年もメジャーにいるのか。それこそが、冒頭で述べた「.714→.143」のひとつの理由ではないか。
なお、5月7日の試合ではスミスがマスクを被った。右打者に対する4シームの割合が42.3%に増え、0-1のカウントでも60%が真っ直ぐと、かなり配球に変化があった。そして、外角も多用していた。