プロ野球「新人王レース2024」最前線レポート

プロ野球史に残る「新人王レース」6選 敗れた選手も多士済々の顔ぶれがずらり

前田恵

ミスタープロ野球も唸ったハイレベルな争い

大学時代からのライバル・高橋由伸らとのし烈な争いを制して新人王に輝いた川上憲伸 【写真は共同】

 1998年のセ・リーグでは投手2人、野手2人の4選手が、これまたし烈な新人王レースを争った。そもそもこの年、ドラフト時から大いに注目を浴びていたのは、東京六大学リーグでもライバル関係にあった巨人・高橋由伸(慶応大①)と中日・川上憲伸(明治大①)であった。共に逆指名での入団。高橋は開幕からスタメンを勝ち取り、川上はプロ初登板、初先発の阪神戦(4月9日)で初勝利を飾ると、シーズン最後まで先発ローテを守り抜いた。その2人に割って入ったのが、阪神・坪井智哉(東芝④)と広島・小林幹英(プリンスホテル④)である。こちらは共に東都大学リーグから社会人を経て、下位でのプロ入り。「六大学のスターに負けるか」との意識が働いたか定かではないが、坪井は代打から間もなく一番打者のスタメンに。小林はセットアッパー、ストッパーとしてフル回転を始めた。あの巨人・長嶋茂雄監督が「う~ん、(今年の新人王争いは)レベルが高すぎますよ」とうなったほどの、注目レースである。

 最終成績は、こうだった。川上が14勝(3完封)6敗、防御率2.57(リーグ2位)。高橋は打率.300、本塁打19、打点75、守備でもリーグ最多タイの12補殺でセの新人外野手初の補殺王になった。坪井は打率.327で、2リーグ制以降の新人最高打率。小林は54試合に登板し、9勝18セーブを記録した。甲乙つけがたい4人の成績だったが、記者投票の結果は意外や川上111票、高橋65票、坪井12票、小林5票と、川上の圧勝に終わった。ちなみにこの年、川上対高橋の直接対決は22打数1安打(1本塁打)。この数字が投票結果に反映されたとする向きもある。もちろん、川上以外の3人にはリーグから特別表彰がなされた。

6人で争った歴史的な新人王レース

大激戦となった2021年セ新人王争い。それを示すかのように史上最多の5選手が新人特別賞を受賞した(写真左から牧秀悟、佐藤輝明、中野拓夢、伊藤将司、奥川恭伸) 【写真は共同】

 2000年代に入り、3投手がしのぎを削ったのが、2013年のセ・リーグである。ドラフトで注目を集めた一人は前年、日本ハムからのドラフト1位指名を拒否した菅野智之(東海大①)。この年、菅野は希望通り、おじ・原辰徳が監督を務める巨人に入団した。一方、甲子園の胴上げ投手から阪神のスター街道を歩み始めたのが、藤浪晋太郎(大阪桐蔭高①)。高卒ルーキーながら、開幕から先発ローテ入りを果たした。ベテランのごとく安定したピッチングを見せる菅野と、若さでグイグイ押しまくる藤浪。その2人に、実は開幕から並走していたのがヤクルト・小川泰弘(創価大②)である。4月3日の広島戦にプロ初登板、初先発で初勝利を挙げるや、先発ローテに定着、そのままシーズンを完走した。13勝6敗、防御率3.12の菅野を超える、16勝4敗、防御率2.93の好成績。負け数の少なさと、リーグ最多タイの3完封も光った。一方、高卒で10勝6敗、防御率2.75の藤浪も十二分な活躍といえよう。新人王は小川に、菅野と藤浪は共にリーグの特別表彰を受けた。

 最後に、記憶にも新しい2021年のセ・リーグ。投票では広島・栗林良吏(トヨタ自動車①)が201票、DeNA・牧秀悟(中央大②)が76票、ヤクルト・奥川恭伸(星稜高①)が12票、阪神・佐藤輝明(近畿大①)が8票、同・中野拓夢(三菱自動車岡崎⑥)が5票、同・伊藤将司(JR東日本②)が4票を集め、栗林が新人王に輝いた。栗林は開幕からクローザーに指名され、プロ初登板(3月27日、中日戦)で初セーブ。新人の開幕からの連続試合無失点記録を「22」まで伸ばした。後半戦には登板20試合連続セーブも達成、2015年の山﨑康晃(DeNA)に並ぶ新人最多セーブ「37」を記録した。野手の最多票となった牧も、リーグ3位の打率.314、本塁打22、打点71で、新人としては史上初のサイクル安打を記録するなど、超新人級(?)の働きを見せたが及ばず。牧以下の5人には、連盟から新人特別賞が贈られた。ちなみに新人特別賞の5人受賞は、過去最多の数字であった。

(企画構成:株式会社スリーライト)

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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