世界を肌で感じた井口資仁が思う日本球界の未来 後輩たちへのアドバイスと日本が果たす役割とは
世界王者となった日本がアジアで果たすべき役割
誤解を恐れずに言えば、日本球界は今、選手だけではなく指導者もアナリストもフロントオフィスも、そのほとんどがアメリカに目を向けている状態です。確かにメジャーは世界最高峰のリーグですし、技術、トレーニング方法、組織としての在り方など、様々な点において学ぶべきことに溢れています。僕も多くのことを学び、参考にしてきましたが、今度はその学びを日本国内に還元するだけではなく、広くアジアや世界に還元する段階にあると思うのです。
アジアには、すでに野球が文化として根付いている韓国や台湾の他にも、競技人口が急速に増え続けている中国、育成年代では野球が広まりつつあるフィリピン、タイ、インドネシア、パキスタンのような国が多数あります。アジア圏における野球の存在感をもう一段階引き上げ、多くの人に愛されるスポーツにすることは、世界王者でもある日本に与えられた使命ではないかと思うのです。
フィリピンやタイ、インドネシア、パキスタンといった国々では、以前から青年海外協力隊や野球経験を持つ有志の日本人が子供たちに野球の楽しさを伝える活動を続けてきました。しかし、道具が高価なために入手が困難だったり、年齢が上がるにつれて野球をする環境が見つからなくなったり、なかなか根付かなかったのが実情です。こういった普及活動を個人の好意に委ねるのではなく、日本球界が責任を持ってしっかりサポートする体制を整えることが大事。日本が音頭を取って、韓国や台湾と協力しながらアジア圏での普及プランを立てるのもいいでしょう。
メジャーが進めるヨーロッパでの野球普及
アジアにはまだまだ野球を観たことがない人たちがたくさんいます。ルールを知らない人でも球場で試合を観戦すれば、レベルの高いプレーに感動を覚える。野球はそんな魅力に溢れたスポーツだと思うのです。
世界最高峰リーグだと自負するメジャーでは、ヨーロッパにおける野球の認知拡大を図るため、2019年からロンドンで公式戦を開催しています。2023年にはシカゴ・カブスとセントルイス・カージナルスが2試合を戦い、両日ともにおよそ5万5000人の観客が集まりました。
もちろん、ロンドンに野球場はありません。2012年のロンドンオリンピックでメイン会場となったロンドンスタジアムを野球仕様に改造し、試合に備えました。2024年には再びロンドンで、2025年には舞台をパリに移して公式戦を開催することが決定しているそうです。
アメリカが「野球の母国」である責任を持って、ヨーロッパやメキシコ、韓国や日本で公式戦を行い、野球の普及活動に励んでいるのだから、日本もアジア圏で野球を広めていく使命があると思うのです。アジア圏での野球人口が増え、北中米に対抗できるレベルまで達したら、これほど夢のある話はないでしょう。
僕はやはり、最終的に野球はオリンピック競技に戻るべきだと考えていますし、そのためには世界的に楽しまれるスポーツでなければなりません。世界一となったことに満足するのではなく、野球がさらに発展するために世界王者が果たすべき責任とは何かを考え、行動に移していくことが日本球界の進むべき道だと思うのです。
書籍紹介
【写真提供:KADOKAWA】
プロ野球では日本一、メジャーリーグでは世界一を経験し、ロッテ監督時代は佐々木朗希らを育てた。
輝かしい経歴の裏には、確固たる信念、明確なビジョンがあった。ユニフォームを脱いで初の著書で赤裸々に綴る。