Jリーグ初のU-23学生マーケティング部10カ月の活動 モンテディオ山形が注力する若者世代の育成とは

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若い世代とともに活動することがクラブの成長にもつながっている

10月8日の「U-23マーケティング部」プロデュースデーでは大人の運動会を実施、参加した企業からも好評の声が届いた 【写真提供:モンテディオ山形】

――では、10月8日のプロデュースデーで「U-23マーケティング部」が実施したイベントなどを具体的に教えてください。

はい。このプロデュースデーに向けてチームが4つに分かれていて、1つのチームは広報という形で全体を見て、あとの3つのチームが考えたイベントをそれぞれ広報して集客することに努めました。広報以外の3チームに関しては、ミドル層、ファミリー層、シニア層のそれぞれの年代に刺さるようなイベントを企画しました。それで「U-23マーケティング部」プロデュースデー全体のテーマが『青春』というものだったのですが、例えばミドル層の場合は「この頃、青春を感じたことはありますか?」という文脈から運動会をしましょうという方向性になったんです。そしてウチのパートナー企業さんや一般の公募も含めて企業同士のつながりも感じていただきながら体を動かすことによって、試合を見る前に『青春』を感じてもらおうというコンセプトで運動会を企画しました。

ファミリー層に関しては、私たちは毎回スタジアムで縁日のようなコーナーを設けているのですが、それをもっともっとパワーアップさせた『超縁日』みたいな形にして幅広くファミリー層に楽しんでいただけるコンテンツを用意しました。また、シニア層に関してはパッケージのチケットを作ったのですが、プレゼントとしてハットとサングラスをつけることで、シニア層みんなでかっこよく試合を見ようというコンセプトの企画を作ったチームもありました。

――どのイベントも面白そうな期待感がありますね。実際にプロデュースデーを見守った立場として、原田さんはどのような感想、評価を持ったでしょうか。

この取り組みに参加してきた学生は色々なことに興味がある子たちなので、この10カ月間、時間の使い方などは特に大変だっただろうなと思うのですが、最後まで自分たちで考えてきたことを形にできたということはすごく評価に値するなと思いました。一方で、リアルな集客という面で言いますと、彼らはこの試合で1万人集客するという目標を立てたのですが、結果としてこの日は7500人しか集客することができませんでした。目標を達成できなくて残念だったなと思う反面、今回の活動は非常に一人ひとりの力になったと思いますし、クラブのためにも大きな力になったと思いますので、僕たちにとっても参加した学生の皆さんにとっても意義のある時間になったと思います。

ファミリー層に人気だった「超縁日」 【写真提供:モンテディオ山形】

――10カ月間の「U-23マーケティング部」の活動の中で、原田さんが特に印象に残った出来事はなんでしょうか?

やはり僕が一番感じるのは学生たちの内面的な成長です。今回参加した学生の子たちは新型コロナ禍の影響で非常に抑圧された環境の中で学生生活を送ってきたと思うんです。学校でも直接授業を受けられなかったり、大学に入学したは良いものの同級生と直接会ったことがないとか。そうした子たちが多かったのですが、特にコミュニケーションの部分では成長が大きかったなと感じています。今回の活動はオンラインとオフラインの混合でやってきましたので、どうしても毎回顔を合わせて話すということは少なかったのですが、この10カ月間を通してお互いに意見交換をする、あるいは意見をぶつけ合うというところで否が応でもコミュニケーションを取らないといけない状況が生まれたことで、若い人たちのコミュニケーション能力の向上という面に関しては僕たちもすごく感じたところですね。

――コミュニケーションという点では技術やツールの発達によりますます人と直接会わなくても成立してしまうという時代でもあるかと思いますが、そうした環境が当たり前となっている若い世代と関わることで、彼らに対する印象などは変化しましたか?

印象が変わったということではないのかもしれないですが、山形は地方ですのでどうしても閉鎖的なイメージを持たれてしまうかもしれません。でも、若い学生でもこんなに熱量をもって取り組んでくれる子たちがたくさんいるんだということが再確認できました。僕の場合、これまで仕事をしていても自分と同じか上の年代の人たちとしか関わらなかったのですが、学生たちと多く関わったことで山形にも熱量の高い若い人たちがこんなにもたくさんいるんだということが分かりましたね。

――とすると、若い人材の育成という意味も込めて立ち上げた「U-23マーケティング部」の活動はモンテディオ山形さんにとっても非常に大きな取り組みになりましたね。

そうですね。本当にクラブとして取り組んだことでクラブ自体のためにもなっていると強く感じます。このプロジェクト自体、マネタイズできているところが少ないのでまだまだ社会貢献活動という側面が強いのですが、クラブとしても若い人たちと一緒に活動することで成長できているなと感じるところは強くありますね。

サッカー、スポーツを通して社会をより良くしたいと思うきっかけに

週1回の活動以外にも学生たちは自主的にミーティングを重ねるなど10カ月間全力で取り組んだ 【写真提供:モンテディオ山形】

――参加した学生の皆さんにとってはこれ以上ない勉強の機会だったと思いますが、逆にクラブとして、あるいは原田さん自身にとって学生から学んだこと、気づきなどはありましたか?

学生だけで全てを形にすることはできないというのは当たり前のことなので、社内の年齢の若い社員もベテラン社員も含めてメンターとして関わっていました。その中で、やはり色々な目線で物事を見る、学生ゆえの目線といったものを様々な場面で気づかされることがありましたので、その意味ではクラブの人間全員が刺激になったのではと思います。

――今回の活動に関して、チーム外から何か反響はありましたか?

おかげさまで各メディアさんに取り上げていただき、Jリーグ界隈でも「山形ってこんなことをやっているんだね」と言っていただくことが非常に増えましたし、他の業界の方からも「これって、どうやってるの?」と質問をいただくことが増えました。また、10月8日のプロデュースデーで実施した運動会に参加していただいた企業の方たちから「こんなに若い子たちが山形で頑張っているんだね」と直接言っていただくことも多かったですので、色々な面で大きな反響をいただきました。

――「U-23マーケティング部」は昨年に続き、今年もメンバーを募集されていましたが、来年、再来年もと継続していく予定でしょうか?

はい。これもまた社長の相田と反省会という形で1期目が終わった後で話をしたのですが、これはやっぱり続けて行くべきものだ、と。そうした考えをクラブとしても持っていますし、山形県にプロスポーツクラブがあることの意味はやはりこうした活動をしていくからだということも社長と話をしました。

「U-23マーケティング部」に参加した学生たちが今回の活動をきっかけに将来、山形県をはじめ社会をより良くしていくことをモンテディオ山形は期待している 【写真提供:モンテディオ山形】

――「U-23マーケティング部」で活動した学生の皆さんには将来どのような大人になってほしい、あるいはどのような形でビジネス、山形県に関わってほしいと思いますか?

この取り組みに参加してくれる子たちは、もちろん全員がそうではないと思いますが、やっぱりモンテディオ山形が好きで、モンテディオ山形というクラブを通して山形県を良くしていきたいという思いを持っている子たちが多いんですよ。僕が思うのは、直接的にクラブを盛り上げてくれる人が将来的に出てきてくれたら嬉しいですが、それよりも山形県でもこんなに面白いことができるとか、今は県外にいるけど山形に戻って何か頑張ってみたいとか、スポーツに限らず色々な業界で活躍できる若い人材が出てきてくれると嬉しいなと思いますね。

――「U-23マーケティング部」の今後や将来の展望に関して、原田さんとしてはどのように考えていますか?

この取り組み自体、今年度、次年度、さらにその次とずっと続いていくようにしていきたいと思っています。また、短期的に成果が得られる取り組みではないとクラブ全体としても思っており、何かを生み出すためにはずっと継続していくほかにはないとも思っています。

一方で、昨年10カ月間やってきたことで色々な反省もありました。もっとこうした方が学生のためになるのではということなど色々な話が出てきた中で、マーケティングの知識などといった分野の方にもうちょっと寄せていって、僕たちのクラブを好きなだけでなく、サッカー、スポーツというものを使って社会をより良くしていくような人材がたくさん生まれる集団、プロジェクトになればいいなと思っています。

そして、この活動をやり続けていくことによってもっと広い視点から、例えば山形全体をもっと良くしたい、日本をもっと良くしていきたいなどメチャクチャ大きくなるかもしれませんが(笑)、何かそういうふうに思ってもらえるようなきっかけ作りができる集団、存在に「U-23マーケティング部」がなれればと思っています。大きなパワーを持った若者が山形からたくさん出てきてほしいですね。

最終的に何につながるのか、その根幹が重要

今回インタビューに答えていただいたモンテディオ山形マーケティング部広報の原田祥平さん(右) 【写真提供:モンテディオ山形】

――10カ月間やってきた中で、「U-23マーケティング部」を立ち上げて一番良かったなと原田さんが思ったことを教えてください。

そうですね、この10カ月間の中でほぼ全員が最後まで続けることができたのですが、活動が終了した後、「モンテディオ山形のことをこれからも応援していきたい。必ず戻って来て山形のために働きたい」と言ってくれた子が何人もいました。その意味では10カ月間一緒にやって来て、「モンテディオ山形ってしょうもないことやってるな」とか「山形って未来ないよね」って思われずに、最後まで一緒にクラブを通して山形をより良くするための活動ができたのではないかなと思っています。そこが僕の中で一番良かったことかなと思っています。

――Jリーグの他のクラブも含めてモンテディオ山形さんと同じように学生と一緒に何か取り組みたいと思うチーム、クラブも出てくるのではないかと思います。今後、そうしたことを考えているクラブに対して何かアドバイスのようなものはありますか?

この活動ってメチャメチャにパワーを使うんですよ(笑)。ですので、きちんと一人ひとりの学生と向き合うこと、そして何のためにやっているのかということをブレさせないことが重要かなと思います。この活動が最終的に何につながっていくのか、そこが僕たちにとっても一番重要だったのですが、今回の取り組みをやることによって「クラブを通して若い人材が山形を良くしていく」――このことが僕たちの根幹としてありました。ですので、単純に若い人を集めて集客したいという短絡的なところにゴールを置くと、なかなか続かないものなのかなと思っています。ですので、そうした根幹の部分が一番重要なのかなと僕としては思っています。ただ、担当者はメチャメチャにパワーを使います(笑)

――20歳前後って何日間かロクに寝なくても平気みたいなところがありますからね(笑)。

そうですね。先ほど活動は1週間に1度と説明しましたが、これは僕たちが設定しているだけであって、学生の子たちは週3回とか、夜の10時くらいから集まって午前1時、2時くらいまで話し合っていたり、僕たちの見えないところですごく頑張っていました。その意味では彼らも相当大変だっただろうなと思いますね。

――そうやって頑張ってきた学生たちの中から10年後ぐらいに、実は「U-23マーケティング部」出身ですというビジネス界の若きリーダーが出てくることを期待したいですね。

本当、そうですよね。そういう若い人たちが山形からたくさん出てきて、将来は僕たちのクラブにも出資してほしいなと思います(笑)

――(笑)。なるほど、若い人材を育てていくことは、そうした将来に対する“投資”という意味も込められているのですね。

はい、そういう面ももちろんありますね。

――今回の「U-23マーケティング部」は本当に素晴らしい活動だと思いました。そして、取り組みに関して貴重なお話をお聞かせいただきましてありがとうございました。モンテディオ山形さん発の若い力の成長を今後も期待しております。

ありがとうございました。

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