5度目の天皇杯制覇に向かう千葉ジェッツ 7年前の初優勝を知る富樫、西村が支えた21点差からの逆転劇

大島和人

西村が試合を決める

西村は試合の「締め」で大きな働きを見せた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 西村文男は第4クォーター残り1分41秒、72-72から富樫のパスを受けて3ポイントシュートを決める。西村はその15秒後にもルーズボールに飛び込んで相手のファウルを誘い、フリースローを獲得。どちらかといえばクールな印象のある男が「ホット」なプレーを見せた。

 西村は言う。

「大事な試合の勝ち方は、やはり僕らの方が知っているつもりです。そういうときの戦い方を背中で見せる……。特に僕みたいなベテランが身体を張って頑張ることで、チームの士気は上がると思っています」

 78-72で大一番は決着した。富樫は試合をこう総括する。

「これだけしびれる試合はそんなに多くないかな、と思うような展開でした。最悪な出だしでしたけど諦めず、これほど力のあるチーム相手にカムバックできたのは、一つチームの成長につながると思います」

 西村の感想はこうだ。

「ホームの力。この言葉に限るのかなと、思います。久しぶりに鳥肌が立つような展開だったので、さすがの自分でもグッとくるものがありました」

リーダー2人が果たした役割

 今季の千葉は選手の入れ替え、東アジアスーパーリーグ(EASL)参加に伴う強行日程もあって苦しんでいた。年明けの13試合に限れば12勝1敗と好調だが、レギュラーシーズンの通算成績は25勝14敗。アルバルク東京、宇都宮ブレックスに次ぐ東地区3位にとどまっている。

 パトリックHCは金近、小川ら若手を積極的に起用していて、未来に向けた明るい兆しは見えている。宇都宮戦の後半のようにチームが「ハマった」ときの爆発力も素晴らしい。ただしチームの安定感、成熟といった面では物足りなさもある。

 宇都宮との準決勝は、そんなチームをベテラン2人が引っ張って、決勝まで引き上げた。富樫は29得点、9アシストの大活躍。西村も20分7秒の出場で8得点を挙げ、勝負どころで攻守のビッグプレーも決めた。

 富樫は2015-16シーズンから、西村は2014-15シーズンからこのクラブでプレーしている。2人はこのチームでBリーグのチャンピオンシップ、天皇杯を計5度も勝ち取った。今の彼らは豊富な経験を積んで「タイトルの取り方」を熟知し、リーダーシップをまとったベテランだ。

初優勝から7年

千葉の天皇杯初制覇は日本バスケにとっても歴史的な出来事だった 【写真:アフロスポーツ】

 千葉は天皇杯に強い。Bリーグ初年度(2016-17シーズン)以後の7大会のうち、4大会を制している。そして2024年3月16日、5度目の戴冠をかけてファイナルに挑むことになった。

 振り返ると2017年1月の天皇杯は彼らが全国区になった契機だった。2016年9月にBリーグが開幕した直後の開催で、千葉が初タイトルを獲得した大会だ。そもそも実業団のルーツを持たないプロチームとして初の天皇杯制覇だった。

 39歳の大野篤史HC(現三遠ネオフェニックス)が率いた新興チームは栃木ブレックス(現宇都宮)、シーホース三河、川崎ブレイブサンダースを連破する快進撃を見せた。23歳だった富樫は、そこから日本を代表するスターへと駆け上がっていく。

 当時の富樫はこんな初々しいコメントを残している。

「プロになって初めての優勝だったので、言葉にできないくらい嬉しいです。オールジャパン(=天皇杯)でプロのチームが優勝したことは無いと聞いていました。今までの歴史を知らないけれど、凄いことだと思います。アルバルクと栃木を追い抜けるように戦っていきたい」

 今や千葉は人気実力を兼ね備えた「ビッグクラブ」で、今春には新アリーナも完成する。チームは世代交代の途上だが、それも産みの苦しみだろう。クラブの歴史を彩ってきた2人は、若手を引っ張りつつ、また新しい歴史を作ろうとしている。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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