6連勝、史上最多観客数と初のCS出場に勢いづく群馬 ガーナ生まれの「優勝請負人」ベンティルが立役者に

大島和人

15歳でアメリカへ

大学時代は「ビッグイースト・カンファレンス」のプロビデンス大でプレーしていた 【Photo by Streeter Lecka/Getty Images】

 ガーナ生まれの彼はバレーボールの有望選手で、サッカーもプレーしていた。そんな少年をガーナの元バスケ選手であるメメ・ファルコナーという人物(ベンティルいわく「ガーナのレブロン・ジェームズ」)がスカウトしたことでその運命が開けた。

「バレーボールに集中していました。ガーナには屋内のコートが無いので(バレーもバスケも)屋外でした」という15歳のベンティルは、その後の人生を考えて奨学金を受けてアメリカで教育を受け、バスケをプレーする道を選ぶ。もっとも高校時代はバスケとシーズンが重ならないサッカー部でもプレーし、「アンビリーバブルでナイス」なストライカーだったという。

 アメリカでバスケットボールのトッププロスペクト(注目選手)となった彼は大学を2年で中退してNBAドラフトにエントリーし、ダラス・マーベリックスの2巡目指名を受けた。NBAでの出場は計3試合に留まったが、ヨーロッパではパナシナイコス(ギリシャ)、オリンピア・ミラノ(イタリア)、バフチェシェヒル(トルコ)、KKツルヴェナ・ズヴェズダ(セルビア/通称レッドスター)など錚々(そうそう)たるクラブでプレーしてきた。

脅威の3Pシュート成功率

2022-23シーズンはレッドスターに所属 【Photo by Srdjan Stevanovic/Euroleague Basketball via Getty Images)】

 ベンティルは207センチ・106キロのパワーフォワード(PF)で、運動能力が高い「アスレチック」な選手でもあるのだが、最大の強みはシュート力だ。現時点の3Pシュートの成功率は何と47.9%。既に10試合を欠場しているため、Bリーグの「3P成功率ランキング」には入らないのだが、ランキング1位のレオナルド・メインデル(アルバルク東京/42.5%)を大きく上回る数字だ。

 これだけの確率で3Pシュートが決まれば、DFは外に広がる対応をせざるを得ない。これによりコー・フリッピン、トレイ・ジョーンズのインサイドへ割って入るドライブが生きる。つまり3Pシュートは「周りを活かすプレー」にもなる。

 高校から本格的にバスケを始めたベンティルが「3Pシュートの名手」になった理由は純粋に疑問だった。本人のセンス、努力が両方あったに違いないが、彼はこう説明していた。

「3Pシュートが得意だなと感じたのは高校生くらいのときです。一緒にワークアウトしてくれたトレーナーたちが色々と教えてくれて、スキルを身につけました。日本でもヨーロッパでも、相手はダブルチームで来ることが多いので、その中でどうやって自分がスコアできるかを模索していく中で、3ポイントも必要だなとなってスキルを磨いてきました」

一つ上のステージに進もうとしている群馬

【(C)B.LEAGUE】

 現地で群馬の試合を見て、改めてその盛り上がりに驚いた。クラブは2021-22シーズンのB1昇格、23年春の新アリーナ完成と順調なステップアップを続け、地元の盛り上がりも伴った進化を遂げている。今季は1試合平均で5千人を超す観客が集まり、11日の大阪戦はオープンハウスアリーナ太田にクラブ史上最多となる5754人の来場者があった。(※場内で発表された「速報値」は5752人)

 日本の印象を問われたベンティルはこう口にしていた。

「まだプレーしながら学んでいるような状態ですが、Bリーグは素晴らしいリーグだと思っています。アリーナ外も含めて、ファンの人たちを温かく応援してくれます。ヨーロッパのファンと違って、街で会っても笑顔で話しかけてくれたりする方が多いから、すごく日本の生活を楽しんでいます」

 彼はギリシャ、トルコ、セルビアなどヨーロッパの中でもファンの熱さで知られる国でプレーしてきた。ただアリーナ内の熱さだけでなく、「アリーナ外の優しさ」がある群馬のファンは好印象を与えているようだ。

 ベンティルに自身がチームにもたらす要素ついて尋ねると、自信に満ちた表情で「すべてです。経験、リーダーシップ、自信」という答えが帰ってきた。その上でガーナ生まれのチームリーダーはこう述べる。

「プレーオフ(CS)進出は自分たちのゴールです。そこに向けてチーム全員に自信を持たせ、リーダーシップを取ることでチームを助けられたらなと思っています」

 群馬は2023-24シーズンの後半に入り、初のCS出場を射程に捉える浮上を見せている。試合を見るとレベルの高い人材が噛み合い、ファンの熱も伴ってきた。恵まれたシュート力や経験値を持つベンティルは、群馬を一つ上のステージに押し上げる切り札となりそうだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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