平山相太が目指す監督像は「指導者=教育者」=単独インタビュー

平野貴也

抱いていた謎の答え、見えてきた理想の指導者像

イビチャ・オシム氏も「教育者」の側面を持った監督だった 【写真:川窪隆一/アフロスポーツ】

――その辺りの考え方は、小嶺先生が与えた指導者像が大きいのかもしれませんね。ただ、学生チームの監督と、プロチームの監督では、求められるものが違います。プロの指導者は、選手の育成ではなく、チームを勝たせることを求められています。

 プロの監督が間違ったことをやっているわけではないですけど。でも「良い指導者」になるには、教育者的な面がないとダメなのではないかと思います。例えば、イビチャ・オシムさん。オシムさんを知る、どの人に会っても「彼は良い指導者だ」と言われますよね。(オシムさんの千葉時代の選手で、FC東京でチームメイトになった)羽生直剛さんは、オシム・チルドレンと呼ばれる選手の一人ですけど、話を聞くと、試合に出ている人も、出ていない人もオシムさんのことを尊敬していると言っていました。それは、選手みんなを見て、成長させられる監督だからじゃないかと思います。サッカーだけでなく、人生においても成長させてもらっているという話も聞きました。

 プロの監督は結果を出すのが仕事ですけど、さらに良い指導者というところで、そこも追求したい、目指したいなという思いがあります。今の自分は、まだサッカー指導の比重が大きいというか、それだけでいっぱいいっぱいですけど。

――プロの監督に興味を持つ中で、不思議に思っていた部分の答えが、学生を指導する立場を選ぶことにつながっていったのですね。

 そうですね。学生を指導するうちに、自分が持っていた疑問に対して、じゃあ自分は何をやろうと思うかという部分が芽生えてきたというか、固まってきたという感じです。仙台大で指導しているときは、まだプロの指導者になろうと考えていましたが、筑波大に行って指導をする中で、自分が目指す指導者=教育者というものに向かって行けるのは、大学生のカテゴリーではないかと感じるようになりました。同時に、子どもでも大人でもない世代の選手を教える面白さも感じました。だから、大学の指導者になろうと思いました。

「怪物FW」ならではの悩みと研究

大学教員としてスポーツに関する研究も行う 【筆者撮影】

――教育者の側面を持つ監督、という意味では大枠で「学生チーム」と捉えることも可能です。高校の指導者などは考えませんでしたか?

 高校生を指導したことがないので、そのカテゴリーを指導する面白さを知りません。それに、高校は自分の選手権の件もあるので、あまり被せたくない気持ちはあります。もしも高校のチームを指導すると、確実に自分の過去がくっついてきてしまうだろうと考えると、嫌だなという気持ちはあります。(自身の高校時代の話と関連することばかりで注目される形になると)選手がかわいそうだなと思うので。ピッチの中は、選手が主役ですから。だから、高校の指導はイメージしたことがありませんし、実際にしたことがないのでイメージが湧きません。

――仙台大と筑波大でコーチをしましたが、違いを感じる部分は?

 違うというより、一緒だなと思いました。練習する中で、求める強度や技術の高さには多少の違いはありますけど、取り組む気持ちや姿勢は変わらない。みんな、サッカーが好きだし、上手くなりたい、強くなりたいという部分は一緒。自分が子どもの時に、サッカーは楽しいなと感じたものとも同じだと思いました。世代が変わっても、チームが違っても、揺るがないものだと感じました。

――4月からは仙台大の教員にもなりますが、研究は?

 一度、JFAのU-14世代のストライカーキャンプでゲストコーチを務めたことがありますが、FWの研究ができればいいかなと思っています。一番は、トレーニング開発ですね。GKはピッチで唯一手を使える特別なポジションで、全体練習とは別に専門的な練習をしていますよね。FWは点を取らなければ生き残れないポジションで、フィールドのほかのポジションよりは専門性が強いと思っています。だから全体練習以外に、FWのための練習はどうすればいいのかを明らかにして、育成年代の選手に提供できたらいいなと思っています。

――プロになってから、オフ・ザ・ボールの動きの重要性に気付いたという話とリンクしていますか?

 そうですね。オフ・ザ・ボールを意識するようになって、こう動いたら点を取れるなと見えてきた感覚がありました。育成年代からやっていれば、どんどん経験値が溜まって、カテゴリーが上がってプロになったときも、まだ大人や外国人選手との身体能力の差があっても、そのスキルを活用できるのではないかと思います。

 日本がワールドカップで勝つためには、海外のリーグで毎年2ケタ得点を取るようなFWが必要だと思います。仙台大学の卒業論文は、ワールドカップの得点の傾向を分析したもので、そのときにサイド攻撃、特にクロスから生まれるゴールが多いという結果が出たので、大学院に提出する修士論文は、クロスに対するオフ・ザ・ボールの動きに関するものを書きました。ほかにも、現場でデータを取りながらコーチング学なども研究したいと思っています。

――研究結果も楽しみですが、やはり監督1年目にどんなサッカーを見せるのかが注目されます。最後に、監督1年目のシーズンにかける意気込みを聞かせてください。

 一番は、選手が躍動することです。FW出身なので点を取るのは好きだし、ボールを奪うのも好きなので、攻守で自分たちからアクションをするサッカーが良いなと思います。かなり、大雑把な表現ですけど(笑)。

 走る中でも技術を落としたくないので、練習からスプリントの回数は増えるかなと思います。見てくれた方に「仙台大学のサッカーは面白いよね、楽しいよね」と言ってもらえるサッカーをしたいですし、もちろん勝つチームを作っていきたいと思っています。


 仙台大学は、東北で唯一の体育大学だ。サッカー部は、東北大学リーグを17連覇中。全国大会は、ベスト4が最高成績。平山監督は、新たな歴史を作り、全国優勝を目指したいという。また、23年シーズンの卒業生は5人がJリーグに進むことが決まっており、13年連続のプロ選手輩出となる。選手育成でも注目されているチームだ。平山監督の就任で、どのような進化を見せるか、楽しみだ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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