青森山田、戦い方に表れていた強さの背景 鍛えた心と体が「技」を生み出すサッカーとは?

平野貴也

青森山田は、決して守備とセットプレーのみで勝ったわけではない。卓越した技術を発揮して4度目の栄冠をつかんだ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 青森山田の強さの理由が、よく表れた試合だった。1月8日に行われた第102回全国高校サッカー選手権の決勝戦では、青森山田(青森)が3-1で近江(滋賀)を破り、2年ぶり4回目の優勝を飾った。

 敗れた近江の前田高孝監督によるコメントが、印象的だった。

「青森山田さんを分析した中で(誰もが気付く点としては)ロングスローとかロングボールは脅威です。ただあまり注目されていないかもしれませんが、上手いんですよね、前(攻撃陣)の子ら。ピッチの中で最速、最短で技術を発揮するチームと定義しました」

 何かが目立てば、ほかの要素は見えにくくなる。高校サッカー選手権は、多くのファンが「日本サッカーの未来に希望を感じたい」という気持ちで接する大会。Jユースに優秀な人材が流れるようになった現在でも、優勝チームに望まれるハードルは高い。一発勝負のトーナメント戦では常とう手段であっても堅守速攻のチームは嫌われ「技術で勝っていない。守備とセットプレーしかない」などと言われがちだ。

 しかし、この大会は、それ「だけ」で頂点に立てるほど甘いものではない。今大会を制した青森山田が見せたものは、鍛え上げられた「心」と「体」によって、常に発揮できる「技」を得たチームの強さだった。

相手の優れた攻撃力を認めた上で選手が選択した策は?

決勝戦では右SBの小林拓斗が前がかりな位置取りを見せた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 決勝戦は、流動的な攻撃を見せる近江に対して、青森山田がどう組織でスペースで消すかという見方ができた。しかし、試合前日に異を唱える選手がいた。青森山田のMF芝田玲(3年、10番)だ。戦術的な話を聞こうとすると「全体の守備の形もすごく大事だけど、 個人の守備強度にフォーカスを当てて、自分が全部(相手のボールを)取ればいいというくらいでやりたい」と一蹴された。大一番を前に強気の言葉が出ることは珍しくないが、話す表情から強烈なプライドを感じた。

 自信と覚悟を宿した強気の姿勢は、彼だけが持っていたものではない。3-6-1の布陣で中盤に人数を割く近江は、左ウイングバックのドリブラー、浅井晴孔(3年・14番)が脅威。3バックの左に入るDF金山耀太(3年・10番)も後方から攻撃参加するため、このサイドをどう抑えるかは一つの鍵だった。

 青森山田は、サイドMFが相手のウイングバックをマークする考えだったが、すぐにサイドMFを前に残し、サイドバックが前に出てマークする形に変更。右DF小林拓斗(3年・背番号2)は「(相手の左は)強烈やし、10番も上手いと分かっていたけど、怯んだらもっと止められない。自分も強烈なサイドバックとしてやっていく自信があった」と強気のプレーを選択した。

 後ろに広大なスペースを空ける怖さがあるなかで、相手の1トップ2シャドーを4バックの残り3人で対応。中央のDF小泉佳絃(3年・5番)も「自分も(相手FWと)1対1でも勝てる自信はあったので、拓斗を前に出した。それが良かった」と強気の戦術変更に迷いを持っていなかった。

 青森山田の正木昌宣監督も「今年のチームは、臨機応変。柔軟性(を持て)ということは、ずっと言っていた。ただ、守備の仕方もあるが、一番(大事なの)はボールを奪いに行く姿勢や奪うスキル。この1年、プレミアリーグでもまれた経験は生きていると思う」と芝田のコメントに似た表現を使った。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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