シーズン移行、残された課題とは? 野々村芳和チェアマンを直撃「降雪地域を切り捨てる? むしろその逆」「100億円で終わりではない」
「100億円」という数字がひとり歩きしている
シーズンを移行しても12月第2週に終わり、2月第3週から再開されるスケジュールは現行のシーズンとほぼ変わらない 【Jリーグ提供の報道資料から】
僕もね、昨年の頭ぐらいからいろんな地域に足を運んで、ローカルのテレビ局も回って、地元メディアの人たちに説明して理解を促してきたつもりなんだけど、まだまだ努力が足りないな、と反省しています。もちろん、これからも発信し続けるし、「来てください」と言われれば行きます。「正確な話を聞きたい」というのであれば、その地域のサポーターの前で話します。
それはいつでもするんだけれど、一番大事なのは、クラブが地元の方々やサポーターとどう向き合うか、クラブが地域の方々やサポーターに対してどれだけ正確な情報を伝えられるか。地域の方々やサポーターのことを大切に考えているなら、事実をしっかり伝えていくべきだし、それは必要なことだと思います。
――そうなると、重要なのは環境整備ですね。現在、「キャンプ費用増額分の支援」と「降雪地域における施設整備の支援」のふたつが予定されていますが、シーズン移行によってキャンプが夏と冬の2回に増えるのは60クラブ平等です。キャンプ費用増額分の支援はやめて、その分も施設整備に充てるべきではないでしょうか?
その通りだと思いますよ。でも、シーズン移行をスムーズに進めるために、スタートのところのハードルを下げるのも大事なことなので。ただ、あくまでも一定期間であって、それがずっと続くわけではないということは、クラブの方々も理解してくれているので、そういう形でスタートしようと思っています。
――それぞれの地域には将来のJリーグ入りを目指すクラブが存在します。5年後、10年後にJリーグに参入してくる降雪地域のクラブに対しても、同じように環境整備をサポートする予定でしょうか?
すると思いますよ。例えば、その地域にドーム型の練習施設を作ったとして、それを地域で運営するのか、クラブが運営するのかにもよるんですけど、いずれにしても新しいクラブの周りにそうした施設がない場合は、サポートする仕組みをしっかり作っていきたいと思います。
日本サッカーが世界と戦っていくためというだけではなく、そのクラブが地域に根ざしていくため、地域の子どもたちが1年中スポーツを楽しむためといったことも含めて、そうした理念に賛同してくれる企業や行政の力も借りながら、この先もずっと整備していけるような仕組みを作りたい。
資金に関して「100億円」という数字がひとり歩きしているように感じるんですけど、今、Jリーグには100億円があり、それをすべてシーズン移行におけるクラブへの支援に使う覚悟がありますよ、ということであって、これがなくなったら終わりというわけではないです。ここからも売り上げをどんどん伸ばしていって、施設を充実させるための投資は続けていくつもりだし、JFA(日本サッカー協会)や賛同してくれる企業からもサポートしてもらえるように、といろいろ考えています。
――シーズンを移行してヨーロッパと合わせることで、日本人選手の欧州移籍が活発になり、フリーでの移籍が増える一方で、より多くの移籍金を獲得できる移籍を実現させていかなければならないと思います。となると、GM(ゼネラルマネージャー)や強化部長など強化責任者の手腕がより一層問われることになりそうですが。
選手はこの30年間で世界に飛び出していって飛躍的に成長したので、ここからはフロントも世界のマーケットで勝負しながら、あの国の、あのクラブのGM、SD(スポーツダイレクター)には負けたくない、といった意識を持たないと、本当の意味で日本がサッカーのトップレベルにはなっていかないと思う。どうすればそれを促せるかといったら、世界と同じ競争環境に身を置くしかない。そうすれば成長できるということは、選手たちがこの30年間で証明してくれていますから。逆に言えば、そうしないと変わらない。
これまではドメスティックな環境のなかで、隣町のライバルクラブを上回ればそれで良かったかもしれないんだけれど、ここからはいかに価値のある選手、つまり、ヨーロッパのクラブが高額の移籍金を払ってでも獲得したい選手を育てられるかどうか、そうした選手をどのタイミングで売って世界から外貨を獲得するのか、ヨーロッパで活躍していて、Jリーグでも結果を残せそうな監督や選手をリサーチして連れてこられるかどうかが問われるようになると思います。
そういう意味では、有能なGMや強化部長はより良い条件で他クラブに引き抜かれる時代になっていかないといけないし、そのポストに外国人が就くようなことも将来的にはあるかもしれない。大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、20年後、30年後に日本のサッカーの現場で英語が普通に使われるようになったら、日本もヨーロッパと肩を並べられるんじゃないかな、と思いますね。
今、JFAがドイツに拠点を置いていますが、Jリーグもヨーロッパに拠点を置く予定です。選手や監督を斡旋するわけではなく、いろんな情報をJクラブに伝えていきたい。本来はクラブが独自の戦略を立てていくべきだけど、それができるような人材が育つにはどうしても時間がかかるから、それまではリーグが徹底してやっていったほうがいいなと思っています。
25年CWCをどう盛り上げていくかは課題
ACLでアジアに勝ち、CWCで世界と渡り合うために、Jリーグとしても引き続き金銭面をはじめとしてJクラブを支援していくつもりだ(写真は23年CWCでマンチェスター・シティと対戦した浦和) 【Photo by Etsuo Hara/Getty Images】
短期的なサポートで言えば、これまでもACLに出場するチームには金銭面や人材面でのサポートをしているから、その額を引き上げるかどうかに関しては議論が必要だけど、引き続きサポートしていきたいと思っています。あと、浦和レッズが優勝したACL2022はノックアウトステージがセントラル方式で、開催地を日本に持って来られれば日本のチームが勝ち上がる可能性が当然上がるわけだから、埼玉開催が実現するように尽力しました。こういったサポートの機会があるなら、次ももちろんやっていきます。
ただ、こうした短期的なサポートだけでなく、勝てるクラブをどう作っていくのかも大事。対症療法ではなくて、競争の中で自然と強くなっていける環境をどう作るか。シーズン移行によってACLのシーズンを合わせたこともそうだし、欧州のシーズンと合わせることでクラブの強化力を上げていくこともそう。勝てる仕組みや環境を長期的に作っていくことが大事だなと。
盛り上げに関しては、今回(23年12月)のクラブワールドカップはテレビ中継がなかったから、難しかったですね。盛り上げたい気持ちはもちろんあるんですけど、SNSで情報発信したくらいでどうなる問題でもないので。25年大会から大規模な大会にリニューアルされるわけだから、FIFAも認知度アップに注力すると思うし、Jリーグとしても25年大会をどう盛り上げていくか、サポートしていくかは課題として受け止めます。
――昨年12月19日に行われたJリーグの理事会で、2026年からのシーズン移行が決まりました。残された課題にはどんなものがあって、どこから着手していく予定でしょうか?
キャンプ費用の支援に関してのルール設計をする必要があるし、「日程くん」のバージョンアップもしないといけない。JFLに関してもシーズン移行する方向で調整に入っているところです。喫緊の課題としては、移行期の大会方式、26年前半の0.5シーズンをどうするかを決める必要があります。
――Jリーグ開幕前の1992年秋に行われたナビスコカップのように、カップ戦を開催しますか?
カップ戦も面白いんだけど、ビジネス的な観点から言うと、タイトルや昇降格があるリーグ戦のほうがいいのではないか、という意見も出ていて。そこに関しては今、クラブと話し合っているところです。
――行政の年度とのズレによるホームスタジアムの確保の問題は、すでに解決しているわけですね?
スケジュールに関しては、移行後のシーズンが開幕する8月の約10か月前、つまり前シーズンの11月ごろから「日程くん」を回し、シーズンが進むにつれて都度「日程くん」を回すことで徐々に確定させていくプロセスを考えていて。「たくさんの競技が使用するので、ホームスタジアムを押さえるのが大変だ」という意見もあるんですけど、こうしたプロセスへと変えることで、スタジアム確保の懸念はクリアできる見込みです。他競技のバスケやバレー、ラグビー、卓球も、行政年度とシーズンがズレていても問題なくやれている。スタジアムよりアリーナのほうがいろんな競技が使うから押さえるのが大変だと思うんだけど、他団体からは「しっかり回せています」と聞いています。
――26年夏からシーズン移行をして10年くらい経過したものの、思い描いていたような効果が得られなかったら、シーズンを戻すという選択肢もお持ちですか?
それはあると思いますよ。検証や修正はずっと続けていくべきだし、世界のサッカーシーンがどんどん変わっていくかもしれない。大事なのは、サッカーという競技はドメスティックなスポーツではなくて、常に世界と競争しなければいけないスポーツだということ。変化していく世界のサッカーシーンの中で、どうすれば日本サッカーの水準が上がるのかを考えていかないといけないし、文化的な側面も含めてビジネス的に世界のマーケットの中でどうやっていくのかも考え続けないといけない。そのうえで戻したほうがいいなら、そういう判断をしないといけないと思っています。
(企画・編集/YOJI-GEN)