宇野昌磨がファイナルで感じた、切磋琢磨する楽しさ 支える人達を満足させる滑りを目指して

沢田聡子

フリー後半でみせた意地のリカバリー

マリニン、鍵山とハイレベルな戦いをみせた宇野 【写真:ロイター/アフロ】

 ショートから中一日置いた9日、フリーに臨む宇野は静かな表情でリンクサイドに姿を現した。宇野にしか醸し出せない深みのあるプログラム『Timelapse/ Spiegel im Spiegel』の冒頭、宇野は4回転ループを決める。続いて跳んだ4回転フリップでは、4分の1回転不足をとられながらも着氷した。

 3番目のジャンプはトリプルアクセルにダブルアクセルを2連続でつけるシークエンスを予定していたが、単独のトリプルアクセルになる。さらに、4番目にも予定していたトリプルアクセルは1回転になってしまった。

 しかし、宇野は後半のジャンプで世界王者の意地をみせる。4回転トウループ+3回転トウループを成功させると、続いて跳んだ4回転トウループでも4分の1回転不足をとられながらも着氷。さらに最後のジャンプとして、予定していた3回転ループではなく前半で失敗したトリプルアクセルを跳び、しかも後ろにオイラー+3回転フリップをつけたのだ。最後の3回転フリップは4分の1回転不足をとられたものの、前傾しながら着氷。直前に滑った鍵山や直後に控えるマリニンとの競り合いによりよみがえった闘争心を感じる、渾身のリカバリーだった。

 宇野のフリーの得点は191.32、合計297.34で首位に立ったものの、最終滑走者のマリニンが5種類6本の4回転に挑み、そのうち転倒したアクセルを除く5本を成功させる驚異的な滑りをみせる。フリー207.76、合計314.66をマークしたマリニンが新時代の幕開けを感じさせる優勝を果たし、宇野は銀メダルを獲得した。

 テレビのインタビューで、宇野はフリー後半のリカバリーがランビエールコーチを喜ばせたことを口にしている。
「コーチもすごく喜んでいて、『その姿勢が一番うれしい』と言っていただけて。正直、点数や細かいところを狙うのも大事になってくると思うんですけれども、まずは自分の一番身近な人達にどう納得してもらえるか、満足してもらえるかを僕は一番大切にしたいと今季思っているので。今日、すごくそこは嬉しかったなと思います」

「自己満足」をテーマに掲げて臨んだ今季の宇野だが、同時に周囲を満足させることも目指しているという。銀メダリストとして臨んだ記者会見では、充実感を漂わせていた。

「今の気持ちとしましては、シーズンに入る前にはここまでハイレベルの戦いになると思っていなかったので、結構楽しいです。やはりこうやって競い合っていきながら、でもお互いが仲良く仲間として、切磋琢磨してより高いところを目指し合えるという環境は、すごく楽しいですし。そうやって僕は、ネイサン(・チェン)とかゆづくん(羽生結弦さん)と一緒にやってきたので。まあ僕は全然置いていかれていましたけど、今回は置いていかれないように頑張りたいなと思っています」

 また、グランプリシリーズで得た最も重要なものを問われた宇野は次のように答えている。

「僕が残りの競技スケート人生で『どういう気持ちで何をしたいか』というのが、この3回の大会ですごく明確に分かったわけではないですけれども、『こうしたいんじゃないかな』ということは分かったかなと思います」

 追われる立場と自覚して今季に臨んでいる宇野がシーズン前半で得たものは、ランビエールコーチをはじめ支えてくれる人達のために滑るという目標と、共に競技のレベルを押し上げていく若い好敵手達と競い合う喜びだった。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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