初のNHK杯で挑んだ大技は、ノービス時代からの代名詞 「どん底」を味わった青木祐奈が得た、怖れない強さ

沢田聡子

「今まで失った自信を取り戻した」演技に手応え

振付師を目指す青木の今季ショートは、自身による振付 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 ジャンプが不調だった時期も、名伯楽・都築コーチに仕込まれた美しいスケーティングと内面の豊かさを感じさせる上品な所作を持つ青木の演技は、いつも深い余韻を残すものだった。そして今の青木は、振付師になるという目標を持っている。

 大学4年生の青木は、節目となる今季、ショートプログラムを自分で振り付けている。青木にとり未来への一歩といえるショートの曲は、『Young and Beautiful』。映画『華麗なるギャッツビー』からの曲で、若さと美しさを失っても愛してくれるかと問う内容だ。成績が伸び悩んでも真摯にスケートに向き合い続けてきた青木だからこそ滑れる、大人のプログラムに仕上がっている。

 青木が「振付の師匠」と呼ぶミーシャ・ジー氏は、青木の今季フリーを手がけている。その振り付け作業の際に青木が今季ショートを自ら振り付けると聞いたジー氏は喜び、振付師として意識しているポイントを伝授してくれたという。青木はその教えを取り入れ、電車の中でも考え続けて、ショートの振付を創り上げた。

 最初の滑走者として臨んだショートの冒頭、青木は苦しい時期も一貫して跳び続けた3回転ルッツ+3回転ループに挑み、着氷させている。回転不足と判定されたものの、今までの苦闘を知る観客から送られた一際大きな拍手が、このジャンプが得点を超えて持つ大きな価値を示していた。

 女子スケーターでは、幼少期に高難度ジャンプを習得して注目されても、思春期を迎え体が変わっていく中で成績を残せなくなるケースが少なからずみられる。3回転ルッツ+3回転ループを跳ぶ中学生として有名になった青木もその後苦しい時期を迎えたが、それでも自らの誇りである大技に挑み続けた。そして観る者の心を動かす滑りを兼ね備えたスケーターに成長した今、NHK杯という舞台で大きな花を咲かせたといえる。

 フリーから一夜明けて取材に応じた青木は、清々しい表情で今後についての質問に答えた。

「全日本(選手権、12月)の結果がもし来シーズンにつながる結果になったら、それは本当に自分にとってチャンスだと思うので、続けたいと思いますし…でも現役を一年続けることはすごく大変だと、自分が一番よく分かっているので」

「簡単には決断できないですけど、でも全日本の結果が上手く次につなげられたら、もう一回考え直したいなと思います」

「今大会でこれだけできたということは、本当に今まで失った自信を取り戻したような感じですし。(7位に入った)去年の全日本(選手権)に続き『自分がこれだけできるんだな』ということを改めて感じることができたので、次につながると思います」

 女子フリー後、青木は男子フリーを観戦し、夢を膨らませていたという。

「チャップリンの曲を使っていたフランスの選手が、すごく踊りが上手で。振り付けをする側としたらやっぱり踊ってくれる・魅せてくれる選手はすごく魅力的だと思うので、そういう選手に振り付けできたらいいなと思います」

 苦境にあってもスケートを手放さずに長い道を歩んできた青木の前には今、明るい未来が広がっている。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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