桃田が示した「復活というより新しいスタイル」の自負 21年世界王者との激闘に熊本が沸いた

平野貴也

過去とは違うプレースタイル、必殺ヘアピンは健在

積極的にスマッシュを打ち込む姿は、以前にはなかったものだ 【筆者撮影】

 2回戦では、世界ランク28位のラスムス・ゲムケ(デンマーク)に2-1で勝利。懸命にシャトルを追いかけ、球が上がれば体力を惜しまず強打を打ち込み、厳しい体勢になっても食らいついて球を拾った。かつてのように華麗な技術で翻弄(ほんろう)するのではなく、泥臭く1点を奪う戦いだ。逆に、積極的に強打する姿は以前になかったもの。勝ち続けた時代とは異なるプレースタイルだ。その中でも、相手に思うように打たせない球回しで相手の心身のスタミナを削り取る部分は、健在。足が痙攣しかけた試合終盤は「相手の方がしんどそうだなと思ったあたりから、ちょっと気持ちが楽になって、しぶとく行こうと思った」と丁寧なラリー。早く勝負を仕掛けたい相手を手玉に取り、5-13から14オールで追いつき、21-16と突き放した。ギネス記録を打ち立てた2019年の最終戦、BWFワールドツアーファイナルズ決勝戦第3ゲーム。アンソニー・シニスカ・ギンティン(インドネシア)に5-12と追い込まれながら、ラリーのテンポを変えて21-14の逆転勝利に持ち込んだ姿が重なった。

 さらに、この試合のフィニッシュが、またも必殺のヘアピンショット。「本当に良いですね。最後の方も、自分のヘアピンを警戒して、相手もすごく前に来ていたので(相手の背後に出す球も効いた)」と手応えを示したヘアピンは、しっかりと足を運んで踏み込み、安定した姿勢で打つことで切れ味を発揮した。レシーブ技術に頼らず、以前よりも積極的に動き回り、果敢にアタックをするスタイル。22年東京開催の世界選手権後に取り組み、なかなか結果が出なかったが、少しずつ改善を目指したことと、腰痛の痛みから解放されたことで、新たな勝ち方が見えて来た。

「新しいスタイルでどんどんやっていきたい」

桃田は、勝ち方を見失った苦しみから抜け出しつつある 【筆者撮影】

 敗れた準々決勝は、ガス欠。次々にノータッチで点を奪われた。だが、試合後は、笑顔。悔しさより、大会を通して世界のトップと互角に戦えた喜びが上回っていた。出し切ったと言い切れる敗退に、桃田は「久しぶりですね。一切、モヤモヤはない。悔しさはもちろんあるんですけど、次、練習の中で、ああしよう、こうしようというのがすごくあるので。(今は)いっぱい寝たいです」と清々しかった。試合を見ていても、取材エリアで話を聞いても、世界の強豪ともう一度勝負ができる楽しみに満ちていることが強く感じられた。

 無敵を誇った時代を忘れず「完全復活」を期待する人も多いが、桃田は、こう言った。

「みんな、監督になった気分で、あの時と比べて、今の桃田は、ああだこうだと論争してもらえるのも、ありがたい。でも、復活というよりは、もう新しいスタイルでどんどんやっていきたい。そこに戻すというよりは、もう違うやり方で。時代も変わってくる。対応しながら自分らしさを見つけられたらいい。昔は、長いラリーが多かったけど、今は、低い、速い展開がすごく多い。順応しながら、でも(技術を生かして戦う)軸はぶらさずに、行けたらいい」

 熊本を沸かせたことについて聞くと、桃田は「俺の方が(力を)もらったっすよ。いっぱい、応援してもらったんで」と答えた。再び世界で戦う手応えを得たニュースタイルの挑戦者は、応援する者とエネルギーを循環するサイクルに戻ろうとしている。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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