FA導入から30年 現代移籍史

“見切り発車”したプロ野球FA制度に見る問題点 MLBの制度設計と決定的に違ったのは……

中島大輔

資金力を背景に変わりゆくFA移籍事情

FAで落合博満(写真左)を獲得し大型補強に成功した長嶋茂雄監督(写真右)率いる巨人は1994年に5年ぶりの日本一に輝いた 【写真は共同】

 こうして使いにくいFA制度が運用されているが、MLBと同じく、年俸高騰がNPBでも起こっている。

 平均年俸は1993年に1963万円だったのが、翌年に2355万円になると、1998年に3060万円、2023年には4468万円まで上昇(日本プロ野球選手会の発表、支配下選手のみ)。FAになった選手は球団の保留権から外れて市場に出るため、マネーゲームが勃発するからだ。今年取得した国内FA権を行使せず、4年総額12億円(推定)で日本ハムに残留した加藤貴之のようにレバレッジを効かせて大型契約を結ぶこともできる。そうして平均年俸は高騰の一途を辿っているわけだ。

 資金力が豊富な球団にとってFAは新たな補強手段となり、当初から賛成派だった巨人とダイエー(現ソフトバンク)が積極的に活用した。

 当時、1試合1億円と言われるテレビ放映権料を主催試合で手にしていた巨人は1993年に自身二度目の監督に就任した長嶋茂雄の下、同年オフの落合を皮切りに、翌年オフに広沢克己(前ヤクルト)、1996年オフに清原和博(前西武)と“4番打者”を次々と獲得。そうして1994年に5年ぶりの日本一に輝いた。1996年には「メークドラマ」と言われる大逆転劇でリーグ優勝を果たすも、日本シリーズではイチローを擁するオリックスに敗れた。

 巨人に対抗心を燃やすダイエーは1994年オフに工藤公康と石毛宏典(ともに前西武)、1996年オフに田村藤夫(前ロッテ)らを獲得。1989年シーズンから南海を受け継いだダイエーは王貞治監督の下、1999年に26年ぶりの優勝を飾った。2005年シーズンから球団運営をソフトバンクが引き継ぐと、他を寄せ付けない資金力でチームを強化していく。

 巨人、ソフトバンクのカネにモノを言わせる補強は賛否両論を呼んだ一方、いずれもFAでの補強を積極的に行い優勝につなげていった。

 対して1990年代後半以降、それ以上の資金力を持つ“黒船”が日本のトップ選手を次々と獲得していく。海の向こうで繁栄するMLBだ。

(敬称略)

(企画構成:株式会社スリーライト)

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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