1年目から大活躍!? ドラフト指名された即戦力候補たち

ドラ1大学生投手の知られざる高校時代【常廣羽也斗編】 広島1位の即戦力右腕を覚醒へと導いた反骨心

加来慶祐

師弟ともに内心ガッツポーズの快投

 3年夏を目前に控えた6月の宮崎遠征で、「常廣は覚醒した」と花田氏は言う。練習試合の相手は宮崎学園だった。当時の宮崎学園にはドラフト候補として注目を集めた長身右腕・松下瑛亮(専修大)が在籍していた。その松下をチェックしようと、試合にはプロ球団のスカウトや有名大学の監督も足を運んでいたという。

 試合前、花田氏は常廣を呼んでこう耳打ちした。

「お前のことは、まったく知られていないみたいだ。なんか腹が立つな。いいか、常廣。試合後にスカウトが俺のところに挨拶に来るぐらいのピッチングをしてみろ」

 すると常廣は、高校時代の自己最速142キロを連発し、11奪三振で松下に投げ勝ったのである。試合後、花田氏が次の試合のスタメンを記入していると、部長がやってきてこう言ったそうだ。

「先生、スカウトの方がご挨拶したいそうです」

 もちろん、師弟ともに内心はガッツポーズだ。常廣は翌日の宮崎日大戦にも登板し、12奪三振で圧倒。まさにこれ以上ない万全の状態で、最後の夏を迎えることとなった。

継投に関する進言に感じた成長の跡

高校、大学時代と通じて、強力なライバルの存在を糧として成長を遂げてきた。青山学院大4年時には東都リーグと全日本大学選手権の優勝に多大な貢献を果たす 【写真は共同】

 夏の初戦は常廣、新名、木村のリレーで4安打完封発進。しかし、続く2回戦で大分舞鶴は打線が4安打に封じられ、0-1で敗れてしまう。先発した常廣は6回を被安打2の無失点と好投していたが、木村への継投のタイミングを計っていた花田氏に、部長からまさかの報告が届けられた。

「もう常廣が限界です」──。夏本番に向けて“メイチの仕上げ”が裏目に出たのか、それともエースとして気負い過ぎたのだろうか。たしかに相手の三重総合は、夏前最後の公式戦・県選手権で敗れた相手で、1球たりとも気は抜けなかったが……。

 花田氏が降板を告げると、常廣は「先生、ここは木村では危険です。新名で行ってください」と、継投に関して進言してきたという。花田氏は迷ったものの、実際にマウンドで相手打者と対峙していた常廣の感覚を優先した。

 結果的に2番手の新名が押し出しの四球を与え、それが決勝点となって試合には敗れたが、花田氏はここでも常廣の確かな成長を感じ取っていた。最後の夏になって、常廣は監督に対しても物怖じせず、自らの意見を申し立てることができる大人の投手へと成長を遂げたのだ。

 教え子であり、大分舞鶴の後輩でもある常廣に、花田氏が望むのはただ1つ。

「勇気のある1球を投げられる投手になってほしい。来年のデビューは、渾身の初球に注目しています」

 常廣が投じる1球が大分舞鶴の道となり、1勝が後輩たちの辿る道となる。

(企画・編集/YOJI-GEN)

2/2ページ

著者プロフィール

1976年大分県竹田市生まれ。東京での出版社勤務で雑誌編集などを経験した後、フリーランスライターとして独立。2006年から故郷の大分県竹田市に在住し、九州・沖縄を主なフィールドに取材・執筆を続けているスポーツライター。高校野球やドラフト関連を中心とするアマチュア野球、プロ野球を主分野としており、甲子園大会やWBC日本代表や各年代の侍ジャパン、国体、インターハイなどの取材経験がある。2016年に自著「先駆ける者〜九州・沖縄の高校野球 次代を担う8人の指導者〜」(日刊スポーツ出版社)を出版した。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント