“通”たちが語る「奥深きスポーツ漫画の世界」

未来の日本代表ストライカーが語る『ブルーロック』の魅力 FC東京の熊田直紀「馬狼照英に自分の姿が重なる」

飯尾篤史

チームからの信頼をまだ得られていない

今年3月に行われたU-20アジアカップでは馬狼のゴールセレブレーションを披露 【Photo by Zhizhao Wu/Getty Images】

――熊田選手が思う、ストライカーのエゴとは?

 言い方はあまり良くないですけど、自己中。それが自分の思うFWとしてのエゴですかね。いい意味でも。結果で示す、みたいな。

――FC東京のアカデミー時代は、結果で周りを認めさせてプロになったけれど、プロになると自己中心的なプレーだけでは成り立たない、という難しさは感じますか?

 そうですね。ユースの頃はシュートを打っていた場面で、プロになってからはパスを選択したりすることがあるんで。周りや対戦相手のレベルは間違いなく上がっているし、自分の力不足でもあるんですけど、ユースの頃のようなゴールへの執着心がもっと必要だなって、最近は感じています。

――ストライカーとして、どんな瞬間が幸せですか?

 もちろん点を取ったときなんですけど、自分はスーパーゴールを決めたときですね。遠くからとか、アクロバティックなゴールとか。そういうゴールが自分は好きです。

――馬狼はチョップドリブルからのシュートという武器を確立したわけですが、熊田選手の得意なシュートの形はなんですか?

 やっぱり左足が武器なので、遠目からのシュートだったり、もっと左足で狙っていきたいと思っています。

――アカデミー時代にはすごいミドルシュートをガンガン決めていましたよね。Jリーグでも自分で持ち込んで決められれば、得点数が増えていくのでは?

 中盤まで落ちてボールをもらって、自分で運んでシュートっていうよりは、ペナルティーエリアの少し外ぐらいにいて、相手を背負いながらボールを受けて、振り向いて左でシュート。それが理想かなと思います。

――今はスタメンで起用される機会が少ないですが、今の自分とどう向き合い、どういうことをテーマに練習していますか?

 最近はゲーム終盤に起用されることが多いので、とにかく点を決められるように、カットインからのシュートに多く取り組んでいます。ちょくちょく使ってもらっているのに点を決められていないから、チームからの信頼をまだ得られていない。それが今の状況に繋がっていると思います。

――ではまず、練習試合や練習中に、ゴールを決める姿を見せる?

 そうじゃないとパスも来ないし、試合中に自分を見てくれる人も増えない。とにかく練習でも結果にこだわっていきたいですね。

大きなチャンスだと思って東京に来た

FC東京ではディエゴ・オリヴェイラという高い壁に阻まれてスタメンの機会は少ないが、3月26日の京都戦でプロ初ゴール、9月3日の福岡戦でリーグ戦初ゴールを記録 【(C)J.LEAGUE】

――『ブルーロック』はストライカー養成プロジェクトの特殊な世界を描いていますが、熊田選手も福島から、プロ養成所であるJクラブのアカデミーにやって来ました。FC東京U-15むさしにはどういう経緯で加入することになったんですか?

 福島の小学生のチームでフットサルのバーモントカップに出ていたときに声をかけてもらったんです。それまではJリーグのことはよく知らなかったんですけど、プロになるための近道というか、大きなチャンスだと思って来ましたね。

――『ブルーロック』は生き残りをかけた熾烈なサバイバルの世界ですが、熊田選手もU-15、U-18の6年間、サバイバルを勝ち抜いてプロになった、という感覚はありますか?

 正直、ジュニアユース、ユースの半分くらいは才能だけでステップアップして来たので、生き残ってきたとか、蹴落としてきたたっていう感じはないですね。

――そういう意味では今、初めて人生の挫折じゃないけれど、壁にぶつかった感じ?

 確かに今は難しい時間が続いていますけど、そんなに驚いたり、やれないなっていう感じでもないです。Jリーグの試合に出たときも手応えは感じているので、もっとストイックにやって、結果を出していきたいです。

――5月には日本代表としてU-20ワールドカップに出場しました。セネガル、コロンビア、イスラエルと対戦して、どんなことを感じましたか?

 スピードや前への強さといった身体能力に関しては、思ったよりもありましたね。でも、びっくりするほどではなかったです。同い年でも、このレベルでやってくるんだな、って感じられたのはよかったです。

――びっくりするほどではなかった、ということは、こいつらには負けていない、と。

 そうですね。負けないし、負けていたらストライカーにはなれないと思いますね。

――熊田選手が思い描いている目標や夢を聞かせてください。

 Jリーグで結果を残すということが今の一番の目標ですけど、夢というか、子どもたちに憧れられる、目標とされる選手になりたいですね。自分にとっての馬狼みたいな感じで。

(企画・構成/YOJI-GEN)

熊田直紀(くまた・なおき)

2004年8月2日生まれ、福島県出身。中学進学に同時にFC東京U-15むさしに加入し、FC東京U-18在籍中の2022年4月にトップチームデビューを果たした。183cm・79kgという恵まれた体躯を生かした力強いプレーと左足のシュートを武器とするストライカーで、今年3月のU-20アジアカップでは5ゴールをマークして大会得点王に輝く。今年5月にはU-20ワールドカップにも出場した。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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