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エヴァートン戦で勝ち点1をもたらした三笘薫の大仕事 困難極まるアウェー戦で見せた日本人MFの真価とは

森昌利

アンチ・フットボールの欲求不満に耐えた自軍サポーターの前で

鋭い切り返しからの三笘のクロスが、カバーに入ったヤングの足に当たって軌道が変わりゴールへ。敗色濃厚だった後半39分、ブライトンがついに同点に追いついた 【写真は共同】

 そんな試合を振り返って三笘は、「ピッチの大きさとかもあるんでしょうけど、雨のところもありますし。なかなか相手もコンパクトに来てたんで、間(あいだ)が開かずに。やっぱり狭い中でパスを繋げるのは難しい。なかなかボールを前に運べない分、まずは引きつけながら、前に運ぶことを意識していましたけど、それでもなかなか難しい展開だったんで。1対1で行けるとこは行きましたが、最後のところの質はまだまだです」と語って、エヴァートンの厄介さにある種の敬意を表した。

 三笘が同点ゴールに結びつく決定的な役割を果たしたのは、そんな守りに守ったエヴァートンの勝利への渇望と希望が膨張し切った後半39分だった。

 後半終了まであと6分と迫ったところで、三笘が左サイドでロングボールを足元にぴたりと収めた。そこからこの試合でベテランのヤングとともに日本代表MFをマークし続けたハリソンと1対1で対峙。そして中央に切り込むと見せかけると、トレードマークの大きく鋭い切り返しでボールを一瞬で逆方向に振って縦抜けし、左足で強烈なクロスをゴール前に送った。

 このボールにハリソンの奥で三笘の突入に備えていたヤングが条件反射とでもいうように、とっさに右ひざを出して当てた。すると三笘の強烈なクロスが完全に角度を変え、絶妙なループボールに変化して、イングランド代表GKジョーダン・ピックフォードの頭の上をふんわりと越えてゴールに飛び込んだ。

 三笘がこのクロスを放ったのは、ブライトン・サポーターが陣取るアウェー席の目の前だった。ブライトンからリバプールは遠い。彼らは悪天候で電車の遅延やキャンセルが続く中、ブライトン→ロンドン、そしてロンドン→リバプールと特急列車を2本乗り継ぎ、イングランドを南から北へ5時間、6時間かけて縦断してここまでやって来ていた。

 そして前半の7分から、愛するチームの攻撃が遮断され続けるのをじっと見守っていた。もう今日は仕方がないのかという諦めも漂った時間帯だった。

 三笘はクロスを放った後、その場に一瞬佇み、美しい弧を描いて相手ゴールに収まったボールの行方をしっかり見定めると、くるっと反転して背後のサポーターに顔を向けた。そして雄叫びを上げると、右拳を上下に激しく振りながら、ブライトンからの長旅に耐え、エヴァートンの先制点から77分以上も続いたアンチ・フットボールの欲求不満に耐えたスタンドの前を横切るように走りすぎた。

三笘の存在価値がさらに絶大かつ絶対的なものに

フラストレーションを溜め込んでいたブライトン・サポーターに歓喜をもたらした三笘。大きな仕事をやってのけ、自身の存在価値をさらに高めた 【写真は共同】

 試合直後、三笘にこの感情がこもったセレブレーションについて聞くと、「もう勝ち点1が決まり、追加点もいけるような時間帯だったんで。自分の不甲斐なさもなかなか感じてたんで、まあ一つ結果になって良かったと思います」と控えめに話したが、その唇はかすかに興奮で震えていたように見えた。

 ただでさえ困難なアウェー戦。そこで結果を負けからドローに変えた三笘のクロス。こういう勝ち点に直結するプレーができる選手こそ本当に貴重である。

 無論ゴールではなく、アシストもつかなかった。記録には「ヤングのオウンゴール」とだけ残る。しかしあのアウェー席を埋めたブライトン・サポーターの心の中では、この同点ゴールを“完全に創造した”と言っていい26歳日本人MFの存在価値が、歓喜の思い出とともに、さらに絶大かつ絶対的なものに引き上げられたことは間違いない。

 困難なアウェーで0-1からの同点劇。これもイングランドのフットボールでカタルシスを生む典型的なドラマなのだ。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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