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“冨安愛”が増殖、レギュラーに肉薄する初ゴール アルテタ監督に「I love him」と言わせたシェフィールド・U戦の余波

森昌利

常にボールに意識のピントが合っていた

後半21分にピッチに送り込まれ、いきなりチャンスを作り出した冨安はインテンシティの高いプレーで攻守に奮闘。後半アディショナルタイムには、コーナーキックからのこぼれ球をゴールに押し込んだ 【写真:REX/アフロ】

 セビージャ戦から中3日でのリーグ戦、冨安は後半21分にレアンドロ・トロサールとともにサブ一番手として出場した。この時点でエディー・エンケティアがハットトリックを記録しており、アーセナルが3-0と大量リードしていたが、日本代表DFはピッチ脇で交代を待つ間に大きく高いジャンプを何度も繰り返し、試合に出るのが待ちきれないという気合十分の様子だった。

 そしてピッチに立って1分後、いきなり見せ場を作る。ライスが中盤からふんわりとしたループボールをペナルティエリアの奥に送ると、そこに鋭く走り込んだのが冨安だった。ジャンプをしながらライスのパスにダイレクトで右足を合わせて、ゴール前に危険な折り返しのクロスを送った。

 この躍動感あふれるプレーにサポーターがすかさず『スーパー・トミ』のチャントで呼応する。さらには後半31分、トロサールの左サイドからのクロスを相手DFが頭でクリアしたボールに、冨安がペナルティエリアの外で豪快に右足のボレーを合わせた。惜しくもこのシュートは左側のポスト外に逸れたが、3-0のリードでありながら貪欲にゴールを目指す姿勢を見せた。

 しかもこうした攻撃面での見せ場だけではなく、どの場面でも高い集中力を維持してインテンシティの高いプレーを披露した。どんなに遠くにあっても、常にボールに意識のピントが合っているという印象だった。

 先発させてもサブで使ってもプレーの質が全く落ちない。しかも右でも左でも「行け」と言ったポジションで全力を尽くす。これは監督にとってたまらないだろう。こうしたプレーが初ゴールにつながったのである。まだ41歳の青年監督なら勢い余って「愛している」と言いたくなるのも無理はない。

 ちなみにこの試合、筆者が推奨するBBCの採点で、サブからの出場でありながら冨安の採点はなんと「7.78」。これはハットトリック・ヒーローのエンケティアの「8.33」に次ぐチーム2位の数字だった。

超一流チームのレギュラーになれる素材

シェフィールド・U戦後の言葉からも、アルテタ監督が冨安に厚い信頼を寄せているのがよくわかる。健康体を保ち、この試合のようなパフォーマンスを続ければレギュラーの座も見えてくるはずだ 【Photo by James Williamson - AMA/Getty Images】

 冨安はチームメイトともしっかり友情で結ばれている。これは本人に「書かなくてもいい」と言われた話だが、試合前日の練習後、シャワーを浴びながらGKアーロン・ラムズデールとある約束を交わしたという。

「明日点を決める、決めないみたいな話をして、『明日点を決めたらロレックスを買ってやるよ』っていう約束をして。でも今日はスタメンじゃなかったから、試合前に俺から、『いや、今日はスタメンじゃないから、ベットしない(賭けない)わ』っていうふうに言って。だから、まあ、その、(ゴールは)決めたけどみたいな(笑)。そういう冗談は言い合ったりはします」

 これも英語が堪能な冨安だからこその日常なのだろう。誰とでも気軽に冗談も言い合える。こうした関係はロレックス以上に価値がある。

「まずはケガしないようにやることです」

 これは今回の取材で冨安が発した最後の言葉であるが、本当にその通りだ。デビュー年も2年目の昨季もケガに泣き、その手に半分つかみかけていたレギュラーの座が遠のいた。

 ケガさえなければ、最終ラインのどこでもプレーができる、素晴らしいサッカーセンスと才能に溢れた日本代表DFは、現在世界一と言って過言ではないプレミアリーグの優勝争いに加わる、アーセナルという超一流チームのレギュラーになれる素材なのだ。

 無論、現時点でも欧州チャンピオンズリーグでフル出場を果たし、プレミアリーグでも左右どちらでもハイレベルのプレーができるサイドバックとして貴重な戦力となり、立派なスカッドプレーヤーとなっている。しかし1日も早く、押しも押されもしないファーストチョイスの選手になってほしいものだ。

 それがアルテタ監督、そしてチームメイトやファンの愛に応える冨安の最善の未来である。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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