“冨安愛”が増殖、レギュラーに肉薄する初ゴール アルテタ監督に「I love him」と言わせたシェフィールド・U戦の余波
常にボールに意識のピントが合っていた
後半21分にピッチに送り込まれ、いきなりチャンスを作り出した冨安はインテンシティの高いプレーで攻守に奮闘。後半アディショナルタイムには、コーナーキックからのこぼれ球をゴールに押し込んだ 【写真:REX/アフロ】
そしてピッチに立って1分後、いきなり見せ場を作る。ライスが中盤からふんわりとしたループボールをペナルティエリアの奥に送ると、そこに鋭く走り込んだのが冨安だった。ジャンプをしながらライスのパスにダイレクトで右足を合わせて、ゴール前に危険な折り返しのクロスを送った。
この躍動感あふれるプレーにサポーターがすかさず『スーパー・トミ』のチャントで呼応する。さらには後半31分、トロサールの左サイドからのクロスを相手DFが頭でクリアしたボールに、冨安がペナルティエリアの外で豪快に右足のボレーを合わせた。惜しくもこのシュートは左側のポスト外に逸れたが、3-0のリードでありながら貪欲にゴールを目指す姿勢を見せた。
しかもこうした攻撃面での見せ場だけではなく、どの場面でも高い集中力を維持してインテンシティの高いプレーを披露した。どんなに遠くにあっても、常にボールに意識のピントが合っているという印象だった。
先発させてもサブで使ってもプレーの質が全く落ちない。しかも右でも左でも「行け」と言ったポジションで全力を尽くす。これは監督にとってたまらないだろう。こうしたプレーが初ゴールにつながったのである。まだ41歳の青年監督なら勢い余って「愛している」と言いたくなるのも無理はない。
ちなみにこの試合、筆者が推奨するBBCの採点で、サブからの出場でありながら冨安の採点はなんと「7.78」。これはハットトリック・ヒーローのエンケティアの「8.33」に次ぐチーム2位の数字だった。
超一流チームのレギュラーになれる素材
シェフィールド・U戦後の言葉からも、アルテタ監督が冨安に厚い信頼を寄せているのがよくわかる。健康体を保ち、この試合のようなパフォーマンスを続ければレギュラーの座も見えてくるはずだ 【Photo by James Williamson - AMA/Getty Images】
「明日点を決める、決めないみたいな話をして、『明日点を決めたらロレックスを買ってやるよ』っていう約束をして。でも今日はスタメンじゃなかったから、試合前に俺から、『いや、今日はスタメンじゃないから、ベットしない(賭けない)わ』っていうふうに言って。だから、まあ、その、(ゴールは)決めたけどみたいな(笑)。そういう冗談は言い合ったりはします」
これも英語が堪能な冨安だからこその日常なのだろう。誰とでも気軽に冗談も言い合える。こうした関係はロレックス以上に価値がある。
「まずはケガしないようにやることです」
これは今回の取材で冨安が発した最後の言葉であるが、本当にその通りだ。デビュー年も2年目の昨季もケガに泣き、その手に半分つかみかけていたレギュラーの座が遠のいた。
ケガさえなければ、最終ラインのどこでもプレーができる、素晴らしいサッカーセンスと才能に溢れた日本代表DFは、現在世界一と言って過言ではないプレミアリーグの優勝争いに加わる、アーセナルという超一流チームのレギュラーになれる素材なのだ。
無論、現時点でも欧州チャンピオンズリーグでフル出場を果たし、プレミアリーグでも左右どちらでもハイレベルのプレーができるサイドバックとして貴重な戦力となり、立派なスカッドプレーヤーとなっている。しかし1日も早く、押しも押されもしないファーストチョイスの選手になってほしいものだ。
それがアルテタ監督、そしてチームメイトやファンの愛に応える冨安の最善の未来である。
(企画・編集/YOJI-GEN)