「敗戦後の関田さんの気持ちは理解できて…」 “苦しかった”五輪予選を西田有志が語る

田中夕子

今までにないくらい高かったディフェンスの意識

「セルビア戦からずっとゾーンに入っているような感じだった」と西田 【(c) FIVB】

――負けられない試合が続く中、チュニジア戦からストレート勝ち。西田選手の意識は?

 切り替えるというよりも、ただボールを落としたくなかった。自分のところに来たら絶対に上げてやろうと思っていたし、「俺のところに来い」と思っていましたね。正直に言うと、今までは試合でここまで(ディフェンスを)やったことがないというぐらい、とにかくディフェンスに対する意識が高かったんです。

 僕が後衛でレシーブに入る時は、前衛でセキ(関田)さんが跳ぶので、相手はそこから打ってくることが多い。上から打たれるのは仕方ないですけど、セキさんがタッチを取っているのに、それが上げられないのは嫌だし悔しいじゃないですか。「やっぱり小さいからだ」と言われるのは絶対に嫌だったので、何が何でも拾ってやる、と思っていました。

――この1点は大きかった、というプレーはありますか?

 トルコ戦の3セット目、18対16でシャットしたところかな。17対16で1点抜け出したところからセキさんのサーブでブレイクして、祐希さんが続けて決めた後にブロックした。セキさんのサーブでブレイクできるとチームが乗るし、トスもキレッキレでしたからね。これだけ平常心を保つのが難しい大会で、だんだんガチッとチームが1つになった。セルビア戦の宮浦さんのスパイクもまさに象徴的でしたよね。

――2セットを連取した第3セット、18対19で1点を追う場面でした。

 セキさんに代わって宮浦さんが入って、藍のサーブで崩したところを宮浦さんがブロックでタッチしてくれた。何が何でもつなぎたかったので、短い腕を必死で伸ばして、頑張ってレシーブしました(笑)。そのボールを祐希さんがトスで上げてくれて、本当は僕、打ちにいこうとしたんです。でも前に宮浦さんがいて、宮浦さんが入ったのが見えたので、いける! と思った。実際大事な一本を決めてくれて、チーム全体が乗ったしそこから一気に走った。ベンチもみんな飛び出してきて、あの1点はまさにチームでとった1点でした。

――スロベニア戦をストレートで勝てば五輪出場が決まる状況で、会心のストレート勝ちでした。

 スロベニアもめちゃくちゃ強いチームですけど、僕は負ける気がしなかったし、絶対にいけると思っていました。実はセルビア戦で足首を捻挫して、テーピングを巻きながらプレーをしていたのですが、スロベニア戦をストレートで勝って終わってホッとした瞬間に足が痛くなった(笑)。セルビア戦からずっとゾーンに入っているような感じで、アドレナリンが出まくっていました。

大阪に戻ってきた時にタクシーで…

――初めての五輪予選、苦しかったですか? それとも楽しかった?

 苦しかったですね。そして難しかったし、何より勝ってよかった。実は大会中、エジプト戦の後に僕のインスタグラムのDMに「お前のサーブミスで負けた。戦犯だ」とコメントが送られてきたんです。ネーションズリーグの時もさんざん誹謗中傷を受けたので、またか、と。

 普段ならそういうメッセージを見ても証拠としてスクショで残すだけなんですけど、その時は「ご連絡ありがとうございます。戦犯で申し訳ありません。他にご意見ありますか?」と返したんです。そうしたら「応援しています。頑張ってください。古賀(紗理那)選手とお幸せに」と返ってきたので「ひとつ質問させて下さい。あなたは僕のアンチなんですか? どういう感情で戦犯と送られたのでしょうか」と返したら、フォローを外されました(笑)。いろんな人がいるのはわかっているし、いろんな感情もあるとは思いますが、僕らは必死で人生をかけて戦っていて、顔も名前もわからない人に言われっぱなしでいなければならない生き方はしていないので。言われっぱなしだと思うなよ、という感情はありましたね。

――おっしゃる通り、いろいろなことを言う人もいますが結果で示して見せた。そしてここからはVリーグ、西田選手も新たな環境でパリ五輪へ向けたスタートです。

 準備はできています。パナソニックでも練習に参加して、自分自身のモチベーションも高いし、やるべきことも明確になっています。昨シーズン、ジェイテクトに復帰した時も負けたら「何しているんだ」と言われましたが、メンバーがそろっていても簡単に勝てるわけではないし、負ける時は負ける。どれだけ自分の果たすべきことをやれるか。それしかないと思っています。

――OQTでバレーボールに興味を持った方々が観戦する機会でもあります。どんなプレー、どんな姿を見せたいですか?

 とにかく一生懸命攻めるし、守る。やることをやる。今回OQTで勝ったことで、いろいろ取り上げてもらえたこと自体も嬉しかったし、何より嬉しかったのが大阪へ帰って来てタクシーに乗ったら運転手さんが、僕だと気づかず「スポーツはいいよね。バレーボール見て、感動して泣いちゃいましたよ」って言ってくれて。
 思わず「僕、西田です」と言っちゃいました(笑)。すごく驚いて「本当に感動をありがとう」と言われた時はやっていてよかった、って心から思いましたね。その言葉ひとつで僕たちはすごく嬉しいし、また頑張ろうと思える。感謝を忘れず、戦い抜きたいと思います。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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