バドミントン大堀彩、躍進の背景 不利な環境でアジア大会銅メダル獲得の理由とは

平野貴也

不利な環境と言われたアジア大会で、大堀は自身初のメダルを獲得した 【写真:アフロ】

 10月8日に閉幕したアジア大会で、バドミントン女子シングルスの大堀彩(トナミ運輸)は、自身初の銅メダルを手にした。24年パリ五輪の出場へ一歩前進だ。日本勢1番手の山口茜(再春館製薬所)が長く世界ランク2位以上をキープする種目。日本が目指す、1カ国最大2枠の五輪出場権獲得を果たすためには、24年4月30日更新時の世界ランクで日本の複数の選手が、16位以上に入らなければならない。日本勢2番手の大堀は、アジア大会開幕時点で20位だったが、10月10日更新の世界ランクで17位に前進した。

 アジアは、世界で最もバドミントンが盛んな地域だ。大陸大会におけるポイントも格付けが異なる。アジア大会は、BWF(世界バドミントン連盟)ワールドツアー最上位と同等のポイント。準々決勝で世界ランク4位の戴資穎(タイ・ツーイン=台湾)を撃破して獲得したメダルの価値は、大きい。

シャトルが「重い」から生まれた変化

 躍進の鍵は、環境に合わせたプレースタイルの変化にあった。個人戦に先立って行われた団体戦で、日本の多くの選手が、大会で使用されたシャトルの特徴として、羽根が開きやすく飛びにくくなることを挙げて「重い」という表現を用いていた。水鳥の羽根で作られているシャトルは、打つ度に羽根がちぎれて白い欠片が舞う。シャトルが整っているうちはよく飛ぶが、ラリーが続いて破損部分が増えたり、シャトルが押しつぶされるように開いて行くと空気抵抗による減速効果が大きくなる。身長169センチの大堀は、女子では長身。高さを生かして角度をつけるオーバーハンドの強打が最大の武器だ。本来なら相性の悪い環境で、プレースタイルを変えていた。

「相手によってですけど、今大会は、羽根がすごい重たかったので、自分の打つ球も決まらない。相手もきつくなってくると(ネット)前に落としたくなるかなというのがあったので、クリアー(相手コート後方への球)もそうですけど、前からの変化で崩して行こうと思って、今大会は、すごく、前を意識していました」

強打が生きない環境で相手の行動を先読み

 バドミントンは、相手に「後方」で打たせるか「低位置」で打たせるかの駆け引きだ。どちらかが成功すれば、鋭い攻撃を受ける可能性を軽減できる。後方で打たせれば、球が返って来るまでの時間が稼げる。低位置で打たせれば、打ち上げるスイングになり、痛打される可能性が消える。上から速く打ち下ろす強打は、2つの要素を兼ね備え、反応が遅れれば遅れるほど「後方」で「低位置」からの返球しかできなくなる。しかし、シャトルの減速によりレシーブされると、打ち続ける方が体力を削られる。そうなれば、どうするか。

 強打と組み合わせやすいのは、強打に反応するために下がり目のポジションにいる相手に対して、ネット前に低く落ちる球を打つ方法だ。大堀は、それを待ち構えていた。ネット前に来る球への反応が速く、安定した体勢でネット前に落とし返して主導権を握ったり、ネット前に出て来る相手の逆を取るクリアーを打ったりする場面が多かった。ネット前の落とし合いで優位に立ち、より低い位置から打たされた相手がたまらず逃げようと高い球を出してきたところを、長身を生かしてたたき落とす場面も多かった。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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