バドミントン大堀彩、躍進の背景 不利な環境でアジア大会銅メダル獲得の理由とは

平野貴也

攻め急ぐ課題の解消方法のヒントが見えた

アジア大会独特の環境に合わせたプレーを選択した大堀だったが、今後に向けた進化へのヒントも詰まっていた 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 本人にしてみれば、環境に合わせただけのことで、この方法が今後もずっと活用できるわけではないという手応えのようだが、進化のヒントが見えたように感じた。先述のとおり、大堀は強打が武器だ。一方、体力に自信がなく、勝負所で焦りやすい課題がある。苦しくなると一撃で決めてしまいたい心理が働くもの。我慢しきれず、攻め急いでミスショットになるのだ。しかし、いつもなら「決める一撃」を狙っているが、今大会では不本意ながら「決める前の崩し」を狙うラリーになったわけだが、その姿勢が自分から崩れる課題に、強くブレーキをかけていた。攻め急がず、狙いを持ってチャンスを待てる大堀の姿は、新鮮だった。

 東京五輪女王の陳雨菲(チェン・ユーフェイ=中国)に敗れた準決勝では、スタミナ切れを起こして、作戦の継続が不可能になった。チャンスを待っている間に、ラリーに付いていけなくなり、甘くなった球を決められて0-2で敗れた。「必死についていくので、精一杯になってしまった。自分から攻めないと勝てない」という彼女の言葉は、そのとおりだろうとも思ったが、団体戦では同じ相手に第1ゲーム18-14とリードする展開ができ、そのゲームを奪われても第2ゲームを取り返してファイナルゲームに持ち込む好勝負ができていたことを考えると、強打で攻めなかったから通用しなかったというわけではないように思える。

 むしろ、格上のシード選手との試合について「自分がどこでミスをするかですべてが決まるというか、ラリーがもう一生続くぐらいの感じで(球が)入るので……」と話した心理の解消こそ、勝利への近道ではないか。これまでにも攻め急がずに我慢のラリーをする試合はあったが、どこか相手のミスを待っている姿勢が強い印象だった。今回の躍進を気に、狙いを持って我慢強くチャンスを待てる選手になり、スピードを上げて一気に攻めるタイミングの使い方で工夫ができれば、相手にとってより嫌な存在になれるはずだ。

日本勢2枠目の五輪出場枠獲得へ、奥原も復活して注目の種目に

「最後は、悔しい負けでしたけど、過程では苦しんで我慢してやったつもり。銅メダルは、少し喜んでいいかなと思うんですけど、オリンピックに向けての通過点だと思うと、やっぱり思い切り喜ぶこともできないし、気を引き締めてやらないと、と思います」

 そう話した大堀の目標は、24年パリ五輪の出場だ。女子シングルスは、日本勢の五輪出場権2枠獲得ができるかどうかと、2枠目を誰が取るかが一つの注目点だ。8月の世界選手権では、16年リオデジャネイロ五輪の銅メダリストである奥原希望(太陽ホールディングス)が8強入りで復活を印象付けた。今回は、大堀が高ポイントを稼いで前進した。

 大堀は今後、欧州3連戦を予定。デンマークオープン(10月17日開幕)とフランスオープンは、ほかの日本A代表選手と同じだが、3戦目のハイロオープン(BWFワールドツアースーパー300)は、単独になる。7月に、日本バドミントン協会の入国申請書類の不備によってカナダオープン(BWFワールドツアースーパー500)の出場が1人だけ不可能になったための代替派遣だ。大会の格付けが異なるため、ほかにスーパー300クラスの大会をもう1大会調整中だという。

 パリ五輪の出場者を決める基準となるのは、24年4月末更新の世界ランク。今年5月からの五輪レースも折り返し。後半に突入する五輪レースで、大堀が進化の証を成績で示せるか注目だ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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