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遠藤航、ヘビーメタル・フットボールの洗礼 レギュラー獲得へ、“本物の怪物”にならなければならない

森昌利

遠藤は「まだいろいろ慣れる必要がある」

ウェストハム戦終了後、遠藤を先発から外している理由を訊ねられたクロップ監督は、「ワタは素晴らしいやつだが、最初の2週間はそれが仇になった」と答えた 【Photo by John Powell/Liverpool FC via Getty Images】

 このニューカッスル戦後、アストン・ヴィラ、ウルヴァーハンプトン、そして直近のウェストハム戦と3試合続けて遠藤はベンチに座り、リーグ戦のキックオフを眺めた。しかも9月代表ウイークで日本代表の遠征先は近場のドイツとベルギーだったにもかかわらず、その直後の9月16日に行われたウルヴァーハンプトン戦では、南米との遠路を往復したマック・アリスターにナンバー6のポジションを奪われ、出番がなかった。

 そんな状況で、ウェストハム戦直後、クロップ監督に「どうして遠藤はベンチに置かれているのか?」と素直に尋ねてみた。

 するとドイツ人闘将は開口一番「まだいろいろ慣れる必要があるんだ」と言うと、こう続けた。

「ワタはスーパー・ガイ(素晴らしいやつ)だ。非常に落ち着いていて、非常に礼儀正しい。しかし最初の2週間、たぶんそうしたところが仇になった」

 このクロップ監督の発言を聞き、違和感を覚えた遠藤のコメントと照合することで、移籍直後は性急とも言える使い方をされていたにもかかわらず、日本代表主将がリーグ戦では直近の3試合全てでベンチスタートとなったことが氷解した。

 リバプールが遠藤を獲得したのは、今夏にヘンダーソン、ジェームズ・ミルナー、ファビーニョらが抜け、カイセド、ラヴィアの獲得に失敗して、守れるナンバー6、日本風に言えば“ボランチ”がチームに欠如していたからだ。

 とすれば遠藤の仕事はまず「中盤の底での守備」と考えるのが定石だろう。それは遠藤のコメントにもしっかりと表れていた。攻め一辺倒のチームにバランスをもたらそうとした。

 ところがクロップ監督のサッカーにそうしたバランス感覚は無用の長物だったのである。

 今季、56歳のドイツ人闘将はリバプール再生に全てを捧げている。先日、奇しくも遠藤率いる日本代表がアウェーでドイツを4-1で葬り去り、ハンジ・フリック監督が解任された。後任は36歳のユリアン・ナーゲルスマン監督に決まったが、英高級紙『デイリー・テレグラフ』によると、当初DFB(ドイツサッカー連盟)の本命はクロップであり、実際に代表監督就任を打診したという。

 しかし昨年4月に2026年まで契約を延長したクロップ監督は「リバプールに忠誠を捧げている」ときっぱりと語り、代表監督就任を断ると、自身が『リバプール2.0』と名付けた現在のチームを再びイングランド最強に押し上げることに集中している。

 だからこそ原点であるカウンター・プレスにこだわり、愚直なほどに攻め上がるのだ。

いい人の仮面を脱ぎ捨て本物の怪物へ

6節ウェストハム戦では終了間際にピッチに送り込まれた。出場時間はアディショナルタイムを含めて7分だけだったが、ひたすらボールを追い続け、存在感を示した 【写真:ロイター/アフロ】

 今季のリバプールは、リーグ戦6試合でクリーンシートはわずかに1試合だけ。しかも3試合も相手に先制を許している。

 もちろんミスもあったが、こうした失点の多さも今季のリバプールが徹底的に攻め上がっている証拠だろう。

 ミスがあっても連携が途中で途切れても、攻め続けるプレーを実戦で続けることで究極のタフネスを身につける。そして2018-19シーズンに欧州CLを制し、翌シーズンの2019-20シーズンにクラブ悲願のプレミアリーグ優勝を果たした、極限のフィットネスを誇り、相手の一瞬の隙も逃さない神がかったプレスと高速連携を見せたチームを再現しようとしているのだ。

 そしてクロップ監督が遠藤に求めている役割は、移籍決定直後の会見で放った『リアル・モンスター』という言葉に集約されている。それは、ドイツのデュエル王となった1対1での抜群の強さを発揮して、アグレッシブな守備でボールを奪い返しまくり、そこからすぐさま攻撃の起点となるナンバー6なのだろう。

 無論、こうしたクロップ監督の要求は遠藤にもしっかり伝わっているはずだ。

 このウェストハム戦、遠藤は後半43分に出場して、アディショナルタイム5分を含めた7分間プレーした。そこには“バランスを見る”日本代表主将は存在しなかった。

 3-1で勝っていることなんてお構いなしだった。獰猛なブルドッグのようにボールに向かった。アンカーでなければならないというポジション意識はなかった。ボールを追うという直感で動いた。巨漢ぞろいのプレミアリーグのピッチで低身長ながら抜群のジャンプ力を見せて相手のゴールキックを頭で弾き返した。いいタックルを2回かました。後半45分にドミニク・ソボスライが16ヤードボックスの外にこぼれたボールに左足を合わせたが、そのすぐ左側まで遠藤も飛び出していた。アディショナルタイムの4分には相手をがっつり削ってファウルを取られた。

 そしてクロップ監督もそんな遠藤の変化にしっかり気がついている。

 いい人なのが災いしたと示唆したコメントの後、攻めダルマの権化ともいうべきヘビーメタル・フットボールの再生を誓ったクロップ監督は、「日々進歩している。(先発に復帰できるくらい)いいところにいる。これからチームを助ける存在になると確信している」と遠藤について語ることも忘れなかった。

 当の遠藤はウェストハム戦の直後、「今日は何も言うことはありません」と言って、筆者の前を素通りした。

 そうだそれでいい。遠藤はすでにいい人の仮面を脱ぎ捨て、超攻撃サッカーを標榜する監督が率いる強豪クラブで本物の怪物に変貌し、リバプールのレギュラーを奪うことに全ての精力を注ぎ込んでいる。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2023-24で23シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル28年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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