6-0の大勝スタートも、最終戦は冷や汗もの…パリ五輪アジア最終予選の出場権を獲得した大岩ジャパンの収穫と課題とは?
目立ったのは松木、平河、三戸……
持ち味である飛び出しからチャンスを創出した松木。運動量を含め頼もしかっただけに、長い時間見たかった 【写真は共同】
サイドバック、ウイング、インサイドハーフの3人がローテーションしながら、大外、内側、後方支援の役割をこなし、攻略していく。初戦と3戦目に右サイドバックとして先発した内野貴史(デュッセルドルフ)が説明する。
「チームとしてのコンセプトがあるんですけど、そのうえで僕の場合、(右ウイングの山田)楓喜は左利きで中に入っていくプレーが得意だから、楓喜を外に張らせてから中でプレーさせたい。だから、自分は高い位置に入りすぎず、内側でバランスをとりながら楓喜にボールを供給しようと。一方、(右インサイドハーフの)玖生は抜け出すパワーがあるので、楓喜がボールを持ったときに玖生がどう動くか、それを見て自分はどう動こうかと考えていた」
チームとしてやや型にハマりすぎる嫌いがあるが、今はその型を作っている段階。さらに試合を重ねていくなかで、臨機応変にプレーできるようになればいい。
プレースキックやスローインにも狙いや意図が感じられた。
パキスタン戦の先制ゴールは山田楓喜(京都サンガF.C.)の右コーナーキックから鈴木海が右足で決めたもの。3点目はスローインから内野のクロスを斉藤光毅(スパルタ・ロッテルダム)が折り返し、細谷がボレーシュートを突き刺した。このチームはスローインの練習にも時間を割いており、セットプレーは特長のひとつだろう。
来年4月のアジア最終予選に向けて、新戦力が台頭したのも大きな収穫だ。
ひとりは初戦と3戦目で先発した松木である。下の世代であるU-20日本代表でキャプテンを務めたダイナモはパキスタンとの初戦でふたつのPK獲得を含め4ゴールに絡む活躍を見せ、インサイドハーフのレギュラー争いに名乗りをあげた。
デュエルに強く、ボックス・トゥ・ボックスの働きでゴール前に飛び出す推進力は、このチームになかったもの。リーダーシップも兼ね備え、欠かせぬ存在となっていきそうだ。
6月の欧州遠征に続く招集となった平河悠(FC町田ゼルビア)もインパクトを残したひとり。パレスチナ戦では何度も左サイドの奥深くに侵入して、武器であるスピードと突破力を披露した。
大外に張るだけではなく、内側のレーンに立ってコンビネーションで崩せるのも魅力。合流のタイミングとコンディション、ゲームプランから今大会での出場は1試合にとどまったが、これからもこのチームで見たいプレーヤーだ。
新戦力ではないが、三戸は新境地を開拓した。新潟ではトップ下を務めることもあるが、このチームではもっぱらウインガーとして起用されてきた。しかし、今大会では一貫してインサイドハーフやシャドーで起用され、パキスタン戦では2ゴールをマークした。
本人は「もっと取れる場面があった」と悔やんでいたが、2列目のどこでもこなせる器用さは大きな武器で、大岩監督からの信頼の高さも伺えた。
アジア最終予選でこの経験を教訓に
パキスタン戦で2ゴールを決め、エースの役割を果たした細谷だったが、バーレーン戦では好機に恵まれなかった 【写真は共同】
日本は引き分けでも予選突破が決まるのに対し、バーレーンは勝たなければならなかった。そのため、0-0で迎えたゲーム終盤、バーレーンが捨て身の攻撃に出てくることは予見できたが、自陣ゴール前でファウルを重ね、自ら相手にセットプレーのチャンスを与えてしまった。
もちろん、決勝点を奪えればよかったが、それができずにゲーム終盤を迎えた以上、ピッチ内でしっかり意思統一を図りたかった。
危なげなくゲームを締められない様子を見ていて思い出したのは、今年5月のU-20W杯だった。1勝1敗で迎えたイスラエルとの第3戦でU-20日本代表は、引き分けでもグループステージ突破が決まったが、1-1で迎えたゲーム終盤に決勝ゴールを奪われてしまった。
下の世代の痛恨の失策を、上の世代も教訓として共有しておきたかった。
このチームには、コロナ禍のために21年のU-20W杯が中止となり、世界大会やアジア予選の経験を積めなかった選手が少なくない。そのため今大会で、予選の難しさ、アジアの怖さをおおいに感じたに違いない。木村が振り返る。
「最後、危ないシーンがありましたけど、何が起こるかわからない“ザ・アジア”みたいな難しい試合でした。でも、カタールでの最終予選でこの経験を思い出せば、絶対に戦える。本当にすごくいい経験だったと思います」
パレスチナとの第2戦が終わった直後、A代表がドイツ代表を4-1で撃破した。“A代表経由・パリ五輪行き”を目標に掲げる大岩ジャパンのメンバーにとって、その結果・内容は、越えるべき壁がさらに高くなったことを意味していた。山本は危機感を募らせる。
「A代表のクオリティは間違いなく上がっていると思うし、その中で僕らも付いていかなきゃいけない。常に上を目指して取り組んでいかなきゃ追いつけないなって思っています」
目指すべきA代表と世界は、はるか先にある。だが、先のことばかりを見ていると、アジアでの戦いで足もとをすくわれかねない。
“高み”と“足もと”――その両方をしっかりと見据えながら、U-22日本代表は来年4月のパリ五輪アジア最終予選に向けて、チーム作りを進めていく。
(企画・構成/YOJI-GEN)