湘南・杉岡大暉×川崎F・山根視来が特別対談 国立の“神奈川ダービー”へ盟友が心中明かす

隈元大吾

ベルマーレで学んだもの

2019年まで湘南ベルマーレでチームメイトだった杉岡(左)と山根(右) 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

――J1に復帰した翌2018年のなかで最も印象に残っていることは?

山根 やっぱりルヴァンカップ優勝だよな。

杉岡 そうですね、2018年はルヴァンじゃないですか。

山根 大暉がMVPになって、ちきしょうって(笑)

杉岡 視来くんが最後独走して点を取りそうになって、俺は「頼む、取るな!」って思いながら(笑)

山根 あはははは(爆笑)

杉岡 「1-0で終われ!」と思って(笑) 視来くんが2点目を決めていたらMVPを取られそうだなと思って。

山根 なんですかねぇ……。あんなに喜んだ試合はあんまりないかもしれないですね。なんかもう、部活動だよね。

杉岡 まあ、そうっすね。

山根 ほんとに、めちゃくちゃうれしかったよ。

杉岡 俺はプロ2年目だったから、まだタイトルのすごさを分かっていなかった。

山根 ああ、なるほどね。

杉岡 いま思ったらすごいことなのに、当時は頑張ってるだけだったから(笑)

山根 俺はめちゃくちゃうれしかったな。

杉岡 (岡本)拓也くんもめちゃくちゃうれしかったって言ってるんですよ。僕はちょっと若すぎましたね。

山根 俺はプロ1年目のとき、降格したチームでリーグ戦に1秒も出てないから、J1は相当高い壁だと思ってたのね。翌年のJ2もいっぱいいっぱいでやってた。それで2018年にはロシアワールドカップがあって、J1には日本代表の選手がたくさんいる。というなかで、叩き上げてきた俺たちが優勝した。だから、あれはうれしかったな。

――しかし、「いっぱいいっぱい」って、いま聞くとびっくりしますね。

杉岡 たしかに。

山根 いやいや、いっぱいいっぱいだよ(笑) 2017年はとくにね。ドリブルして何回取られてピンチを招いたか(笑)

杉岡 あはは(笑)

――ベルマーレ時代に育まれて、現在も糧になっているものはありますか?

山根 考え方とかメンタリティとか、根本的なところは全部そうですけどね。根性論みたいなものなんですけど、痛くてもやるとか、ピッチから出ないとか、ボールを奪いに行くとか。べつに抜かれても奪いに行ってるんだからそういうこともあるし、そこから少しずつ抜かれないように成長していけばいい。逆に、抜かれたくないからこのぐらいでいい、みたいな考えにはならない。そういう根本的な考え方は、ベルマーレだったから育まれたと思います。

杉岡 視来くんはメンタルがタフですよね。

山根 でもさ、鹿島は練習からバチバチやるけど、球際にガチャンと行ける選手ってほかのクラブではあまりいないんだよね。湘南以外のクラブだとそこが光るみたいで、このまえ(武田)英二郎くんとも話したんだけど、そうやって行ける選手がいないから行ける選手は目立つし、それが特徴と思われるって。それをあのひとも感じているみたい。

杉岡 俺はもともとそういう選手だから。

山根 行くってことでしょ?

杉岡 そう、湘南の考えというより、もともと自分の強みがそこで、それを曺(貴裁)さんが引き出してくれた。だから湘南で試合に出られたし、自信もつかめたし、湘南で試合に出させてもらってJリーグに慣れさせてもらったという気持ちが僕は強いですね。自分は下手だし、湘南じゃなかったらもうフェイドアウトしていたかもしれない。

山根 なに言ってんすかね。

杉岡 って俺は思いますけどね。湘南で試合に出させてもらったから評価してもらって自信をつかんでいったと思います。

お互いをどう見ていた?

川崎Fに移籍、その後W杯出場を果たした山根への率直な思いを明かした杉岡 【佐野美樹】

――フロンターレに移籍してレギュラーをつかみ、ワールドカップに出場するまでになった山根選手を、杉岡選手はどのように見ていましたか?

杉岡 いやあ、悔しかったですよ。でも悔しいけど、すごいなって思いながら、僕はこの5個の年齢差だけを言い訳にして頑張ってきました。俺にはあと5年あると思って(笑)

山根 あはは(笑) 間違いない。

杉岡 まだ大丈夫だと思いながら頑張ってます。

――それにしても、湘南から川崎Fに移籍し、ストッパーからサイドバックになって、最初からうまく順応しましたよね。

山根 順応してなかったですよ。めちゃくちゃ大変でした。ただ、ベルマーレにいる頃から、いつかは俺は4バックのサイドバックをやらないと上には行けないと思っていたので、最初はチームに溶け込もうとして自分のよさを全部消して、フロンターレ仕様の自分になろうとしていました。でもあるとき、いまやっているプレーと、湘南のときに評価されていたプレーをノートに書き出して比較したんですね。そうしたら全部当てはまってないんですよ。運ぶドリブルや持ち出し、クサビのパスといったプレーを評価されていたのに、じゃあいま自分がフロンターレでどういうプレーをしているかといったら、あいだで受けてみたり、ひとを探してパスしたり、いや全然違うなあと思って。

杉岡 なるほど。

山根 でも自分は湘南時代のプレーを評価してもらってフロンターレから声がかかったわけだから、もともとやっていたことをすればいいんじゃないかということに文字に起こして気付いて、そこからちょっと変わったかもしれないです。

――そのテーマは杉岡選手にも通じるのではないかと思うのですが。

杉岡 そうですね。僕も4バックでプレーできなければいけないと考えていましたし、それも鹿島への移籍の決め手のひとつでした。でも、入り方はたぶん僕と視来くんは違うんですよね。俺は鹿島で自信を持ってプレーできなかったから。

山根 え、おまえが?

杉岡 うん。

山根 そういうのとは無縁の人間だと思ってた。

杉岡 いやいや(笑) やっぱり湘南には高卒で入って、下手でも推進力をもって行けるところが思い切りのよさにつながったけど、鹿島に行ったらそのキャラは誰も知らないわけですよ。そうすると、ただの下手キャラになってしまう。

山根 ああ、なるほどね。

杉岡 自信を持ってできないし、周りは上手いし。ほんとに苦しかったですね。

――鹿島に移籍してからの杉岡選手の動向は見ていましたか?

山根 はい。たしかルヴァンですぐ鹿島と試合をしたのかな。

杉岡 そうですね。

山根 マッチアップを楽しみにしていたんですけど全然出ないから、なにしてんだよって(笑)

杉岡 ちょっと待っててくださいと言って(笑) 結局、鹿島でフロンターレ戦には1分も出てないですね。

――山根選手は、周りが上手いことがプレッシャーにはならなかったのですか?

山根 いや、なっていましたし、いまでもミスしたら恥ずかしいと思いますけど、でも下手なんだからしょうがないかって。ミスして恥ずかしがるのはおこがましいぐらいに思っているときはあったかもしれないですね。でもなんだろう……川崎は、ミスが起きた瞬間にはもう周りの切り替えが始まっているんですよ。

杉岡 へえ。

山根 で、奪える能力のある選手たちがいっぱいいたので、すぐに次のことを考えられるというか。「なにしてんだよ」みたいな空気はいっさいなかった。

杉岡 でも俺に言わせれば、視来くんは下手じゃないんですよ。

山根 いや、それは俺よく分からないよ。

杉岡 いやいや、だって湘南のときも、めちゃくちゃ高いボールを普通にピタッとトラップしたりしてたじゃないですか。だから俺は視来くんが下手っていうのはよく分からないです。

山根 いやいやいや(笑)

杉岡 俺はそういうプレーができなかったから。勢いでやって技術的なことはほんとに自信がなかったから。

――実際、山根選手はボールを持つことや受けることにストレスがないと感じます。

山根 いや、そんなこともないですよ。

杉岡 俺もそう思います。だからこそ川崎で活躍していると思う。

山根 いや、じゃあ俺のドリブルが引っかかって、あれだけカウンターを食らわないでしょ。

杉岡 それは判断の問題ですよ。視来くんの場合は、単純なトラップミスで取られるとかじゃないですもん。

山根 そうなのかなあ。いやあ、そんなことないけどね。

杉岡 俺はそもそもそこに不安があったから。トラップは止まらないし、それで前を見ることができないし、みたいな感じで苦労した記憶がすごくあります。

山根 鹿島で1年半プレーして湘南に戻ったんだよね?

杉岡 はい。

山根 試合のあと(2021年第30節川崎×湘南)、「苦しんだけど(鹿島での経験は)無駄じゃなかった」って言ってたよな。

杉岡 ああ!そうだ、湘南に帰ってきて、シーズンの最後のほうにやりましたね。

山根 そう話してたのを覚えてる。あと誰か忘れたけど、「大暉はできることがめちゃめちゃ増えてる」って言ってたよ。

杉岡 たぶん拓也くんです。

山根 ああ、そうだったかな。それを聞いて、やっぱそうなんだと思って。いまは自信を持ってやってるんだろうなって思ったよ。

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著者プロフィール

湘南ベルマーレを中心に取材・執筆。クラブオフィシャルの刊行物をはじめ、サッカー専門誌や一般誌等に幅広く寄稿。

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